「今のはいい」、「今のはダメ」と、振っている音で判断するのです。毎日続けているうちに松井自身も、自分で音を聞き分けられる耳が育ってきたというのです。

 私も素振りの音は大切にしていました。左打者なので右耳にバットが体を通過した後の「プン」という短く、高い音がするのがいいのです。「ブン」でも「ブーン」でもない「プン」です。体全体を使ってミートする瞬間に力が最大限に伝わるスイングが「プン」と聞こえるのです。長嶋さんにも同じような耳の感覚があったと思います。

 松井にとって長嶋さんとの濃密な時間は、打撃の技術だけでなく、巨人の伝統を受け継ぐ儀式でもあったのでしょう。清原に続き、松井までドラフトで外した阪神にとっては、逃がした魚が大きすぎました。

巨人の四番を受け継ぐ
岡本和真は三冠王も狙える

 岡本和真はまぎれもなく巨人の四番打者になりました。2023年は初めて40本塁打の大台をクリアする41発を放ち、3度目のキングに輝きました。6年続けての30本以上をマークしており、ベンチが確実に数字を計算できる打者です。

 あと必要なのは四番打者として日本一にチームを導くことだけでしょう。2019年、20年は主軸としてリーグ優勝を果たしていますが、日本シリーズでは1勝もできませんでした。岡本にとっては個人タイトル以上に、勝つことに飢えているはずです。2023年の契約更改でも「優勝しないと何も評価されない」と発言していました。まさに勝つことが宿命づけられた巨人の四番を背負う打者だと思います。

 打者としてさらにワンランク上がれば、三冠王も狙えます。そのためには四球の数を増やすことです。40発以上のホームランを打った割に72四球は少ないです。後ろの打者の兼ね合いから自分で決めに行った場面が多かったとはいえ、90近くはほしいところです。

 王さんがホームランを打つために必要なのは、ボールを見極める我慢、振る勇気、仕留める技術と説いていましたが、岡本に必要なのは我慢だけです。そうすると、111個の三振も2ケタに抑えられるはず。四球が増えるので、打率も2割7分8厘でしたが、3割に乗せられるでしょう。

坂本勇人は歴代ナンバー1の
ショートと言える理由

 ここ20年の巨人を支えてきたのが坂本勇人です。2023年のシーズン途中に遊撃から三塁にコンバートとなりました。私も若い頃に遊撃を守ったことがありますが、感覚が全然違います。三塁手は一歩目のスタートが大切です。バットにボールが当たった瞬間に反応できるかどうか。