圧倒的に欠けていた「経験」を
フィールドワークで得られた
帰国直前、ダグの家で送別パーティーを開いてもらった。学生たちを招き、乾杯の前にはスーパーボウルが開催されることになった。
スーパーボウルとは、お祭りの屋台で見かける非常に弾力に富んだゴムボールのことではなく、アメリカンフットボールの最高の大会のことだ。アメリカ合衆国、最大のスポーツイベントが、今ここに。
さっそく2チームに分かれ、楕円形のボールを抱えて走ったり、仲間にパスしたりしてやいのやいの遊び始めた。リアルなアメフトは、強烈なタックルが繰り広げられる格闘技に近い激しさだが、お遊戯としてのアメフトのため、凶悪なタックルをするガチ勢はいなかった。
相手の陣地に向かって走り、後方から天高く放られたボールを胸で抱きしめるようにキャッチした。
「よくやったコータロー!アメリカではタッチダウンした者のみが大人になれるのだ。今、お前は大人になったのだ!」
ダグやみんなが握手を求めてきて、生まれて初めてのタッチダウンを祝福してもらった。
実は、フロリダ行きの飛行機代やら宿泊代やらを全てダグに出してもらっていた。

前野 ウルド 浩太郎 著
「私はあなたがお金に困っていることは知っている。フロリダ行きで使うはずだったお金は、私には返さなくていいから他のことに使って、自分の研究を進めてください。その代わり、何か面白いことがわかったら、また報告してください」
いくら教授がお金に困っていないとはいえ、見ず知らずのポスドクに飛行機代を奢ってくださるとはなんとかたじけない。お金を返すのは誰にでもできるけど、バッタに関する新発見でお返しできるのは私だけだ。
この貴重な経験を活かし、サバクトビバッタの繁殖行動の謎を解き明かし、恩返しとしてお伝えすることを約束し、日本へ帰国した。
念願のフィールドワークでの調査――私に圧倒的に欠けていた経験を手に入れることができた。