バッタ類の卵巣は、卵製造機である。

 一対のクシ状の器官のひとつずつの歯にあたる卵巣小管は、1本ずつが数珠状になっており、できあがった卵を運ぶ輸卵管と呼ばれる1本の太い管状の器官に連結している。

 輸卵管に連結している卵巣小管の数珠つなぎになっている一つ一つの数珠は卵母細胞と呼ばれ、一番根元の卵母細胞が大きくなると卵になり、輸卵管に移動し、根元から二番目の卵母細胞が次に発達して卵になる。このサイクルを繰り返し、産卵している。

 つまり、輸卵管に卵があるか、卵母細胞の大きさによって、産卵直前の卵を持っているかどうか判断できるわけだ。外見から正確に判断することは難しく、解剖して卵巣を直接観るほうがよい。島にいたメスを宿泊先のロッジに持ち帰り、解剖して卵巣の状態を調査した。

 結果は、島にいた交尾中のメスと交尾を終えたメスの輸卵管には、ほぼ全て卵があった。

 まとめると、この島のほとんどのメスは輸卵管に卵を持ち、産卵の準備ができていた。あるいは産んだばかりだった。このことは、メスは産卵しに島にやってくることを示している。

 今回、時間の都合で道路沿いのメスは解剖しなかったけど、とりあえず、産卵間近のメスだけが島にやってきていることはわかった。行動的なデータに加えて、生理学的なデータもあれば繁殖行動の理解が進む。サバクトビバッタを調査する際にも有効である。良きアイデアを頂戴した。

オスが島に集まる理由は明快
「そこにメスがいるからだ」

 ふと疑問に思ったのだが、なぜオスはライバルひしめき合う島で、オス同士で競い合ってメスを待ち伏せしているのだろうか。どこか別の場所に行ってナンパしたほうが、抜け駆けできそうなものを。

 おそらく、ただでさえノロマなオスである、湿地帯でメスを探し当てるのは下手くそなのだろう。待ち伏せしていたほうが、よりメスと出会える確率は高まるに違いない。

 ダグの目撃情報によると、メスが島に到着すると、多くのオスがメスにマウントしようとし、時にはメスを真ん中にして、アプローチしてきたオスたちで球状になるほどのモテっぷりだという。