「いくらでもいいから売れ!」と言われるのはいつか?
その年度の決算の数字が見えてくるのは3月決算であれば、だいたい1月下旬から2月上旬です。そのタイミングで、数字をどう調整するかの検討になるので、対象赤字物件が決まって、指示が出るのが2月中旬です。
「いくらでもいいから売れ!」の指示がその現場に来ると、積極的に商談でサービスの話を始めます。この時に思うのが「2週間前にきたお客さんは損しちゃったなぁ」ということです。
平常時、基本的に竣工在庫には「販売促進費」という値引きの枠があります。その枠は定価に対して多くても10%ほどです。これはその物件の収支と営業が「このくらいでなら売れるだろう」という価格をもとに設定しているのです。しかし、その枠を取っ払ってくれるのが、「いくらでもいいから売れ!」の指示なのです。
ちなみに、2週間前にきたお客様に再度アプローチしてもなかなか動いてはくれません。「買ってもいいかも」と思ったお客様でも、いったん気持ちが萎えてしまうと同じ物件に行く気にはならないようです。気持ちがキレるとそれを戻すのは難しいのです。結局、サービスする枠は増えてもすぐ売れることはなく、集客からしなくてはいけないのです。
つまり、値引きの枠が増えても完売するのはそう簡単なことではないのです。
広告でわかる値引きのサイン
いざ集客するといってもいきなり「いくらでもいいから買って下さい」とは書けません。書いてはいなくても広告を見れば値引き可能物件かどうかは結構分かるものなのです。
1. 物件概要
苦しい物件は「物件概要」にヒントがあります。「物件概要」とは何かを知っておきましょう。広告物というのは目立つところにそのマンションのアピールしたいことを派手に書きます。しかし、デベロッパーが伝えたいことを伝えるだけではなく、お客様にあまりよくない情報も伝えなければなりません。その役目が「物件概要」なのです。だから「物件概要」には、お客様に伝えなければならないことを、つまり伝えたいことも伝えたくないことも淡々と文字で表現しています。そしてあまり伝えたくないことも必ずあるのでチラシなどでは目立たないところに小さい文字でごちゃごちゃ書かれているのです。とすれば、冷静に物件を評価するには「物件概要」をしっかり見るのはとても重要なことなのです。広告の打合せをしていても「物件概要」のチェックは慎重を期します。アピールすべき部分の打合せはアクティブに行うのに対して、「物件概要」のところは非常にディフェンシブになるのです。ただし、「物件概要」の全てを同じテンションで見る必要はありません。特に値引きがありそうかどうかを見る上においては。
【1】竣工年月日
完成して時間が経てばたつほど経費はかかり、しかも市場での鮮度は落ちていきます。現時点に対して竣工日がどのくらい前かは重要な要素です。通常青田売りから始めて販売のヤマ場は何回かあるのですが、竣工したてが最後のヤマ場なのです。それを過ぎた物件は苦戦しているとみていいでしょう。定価で買う必要はないし、竣工して半年以上経過していれば大幅値引きの可能性もあると見ます。
【2】販売戸数
販売戸数は、ありのままを表記していることはあまりありません。あまりに在庫が多いと不人気物件だと思われるので本当の在庫の3分の1から2分の1程度しか出しません。販売戸数3戸と書いてあれば6戸〜9戸まだあると思っていいでしょう。ただし、1戸だと実数を出します。もちろん3戸あっても1戸と表記する場合もあるので難しいところなのですが。販売戸数1戸であれば売れれば現場を閉められるので、販促費の「貯金」があればお得な買い物が出来るかもしれません。もちろん、立地、間取りが納得いくということが大前提です。
2. 値引きの広告キーワード
値引きしてでも売りたい場合、マンションの広告では「見切り処分、30%オフ」のような表記はしません。今ではなくなりましたが、バブル崩壊直後などは、値下げに対してそれまでに買った購入者が訴訟を起こすというようなことすらありました。
そのような背景があるので、あからさまな値引き表記はしませんが、「なんとか来てもらえばいい話がありますよ。」ということを広告で伝えようとします。
【1】家具つきモデルルーム販売
オーソドックスな告知です。「モデルルームとして使用した住戸は不特定多数が出入りしたので他の住戸と同じ価格では悪いので家具をつけます。」というのがデベロッパーの言い分です。しかし実際には、これは集客するための手段であり、来場すると「他の住戸でも同じようなサービスをするのでいかがですか?」と言って営業するべく待ち構えているのです。
【2】○○キャンペーン
極端な実例では「1000万円相当オプションプレゼントキャンペーン」というのがありましたが、売り方は、「オプション1000万円つけるのも物件価格を値引きするのも同じです。買っていただけるならお好きな方をお選び下さい。」という形でその気にさせる作戦です。マンションの広告で「キャンペーン」の文字が見えたら「値引きします」と読み替えていいでしょう。しかし、先ほどの極端な例ぐらい苦しんでいる物件はそもそもの価格自体が高すぎた可能性が高く、周辺の他の物件や中古の相場などもチェックしないとお得な買い物のつもりが、単なるババ抜きのババを引かされるだけになるので要注意です。そう簡単にうまい話はありません。
【3】新価格発表
「新価格発表」は完全に「値引き」の言い換えです。ここまでくると新価格のほうが相場であるとマーケットは認識します。二重価格は禁止されていますが、旧価格と新価格を並べるのは私には合法的二重価格に見えます。新価格物件を検討する場合は新価格からさらにサービスがあるかどうか打診してみる必要があります。