脱プラスチックの高まりを受けて、飲食店でよく見かけるようになった紙ストロー。本当に環境の配慮につながっているのか。専門家に聞いた。AERA 2024年6月10日号より。
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本物の食通は、料理や器と同じくらい、箸にもこだわる……そんな話を聞いたことがある。箸は料理とともに口に入るもの。唇や舌に違和感を抱かせてしまえば、料理の味すら変わってしまう。例えば漫画『美味しんぼ』の海原雄山(かいばらゆうざん)みたいな食通がこれを口にしたら、「女将(おかみ)を呼べ!」と怒り出すと思う。何って“紙ストロー”だ。
まあなんせ、あのぶっといストローの唇や舌への違和感たるや、並じゃない。おまけに紙製なんで、水分を吸ってすぐヨレヨレに。それでもプラ製品の削減などを目指した「プラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)」が施行された2022年と前後して、紙ストローを導入する飲食店をあちこちで見かけるようになった。
あれから2年、SNSなどで定期的にバッシングの声が上がりつつも、いまだにあのぶっとい紙ストローで飲むことになる店は、けっこう多い。試しに近所にあるチェーン店のコンビニ、カフェ、ファミレス、ファストフード店など7店を回ってアイスドリンクを注文してみた。
プラスチックのストローを出していたところはわずか1店。あのぶっとい紙ストローを使う店は3店で、残りは「植物由来の原料100%」などと書かれたバイオマスプラスチック(バイオマスプラ)のストローだった(5月26日現在、筆者調べ)。
ちなみに、エコバッグをざっと50枚は持っている・にわかエコ・な自分の場合、ぶっとい紙ストローに不満が募るたび、鼻にプラストローが刺さったウミガメの動画を思い出して、文句を言わずに飲むようにしている。だが……。
「消費者の意識にボタンの掛け違いがあるのかもしれませんね」
そう話すのは、東京大学大学院工学系研究科准教授で、循環型社会システムにくわしい中谷隼(じゅん)さんだ。そもそもこのウミガメ動画。2015年に公開されて以来、私だけでなく世界中に大きな反響を呼んだ。ウミガメの鼻から出てきたのがプラスチックストローだったため、脱プラストローのきっかけのひとつになったと言われることもある。
「ただし、海洋生物にこんなふうに害を及ぼすプラスチックのほとんどは、不法投棄によって海に流れ出てしまったものです。プラスチックのストローを使ったとしても、ごみとしてきちんと廃棄し処理されるなら、ウミガメの鼻に刺さることはないのです。一方、紙のストローでも不法投棄されれば、分解される前にウミガメが吸い込まない保証はない」