高齢者が同じ話を何度もくり返してしまう本当の理由
先ほど紹介した消防団の大先輩Yさんのように、同じ武勇伝をくり返し話す高齢者は大勢います。
理由を説明しましょう。
まず、人間は加齢によって記憶力が低下していきます。50代から始まり、60~70代でピークを迎えるのが一般的なパターンです(※1)。
ただし、低下する記憶力と、あまり低下しない記憶力があります。
20代前後の記憶は残りやすく、昔の話はなかなか忘れません。長期的な記憶は、短期的に新しく入れた記憶よりも色褪せにくいといわれています。
また、過去の記憶は嫌なことから消えていき、いいことは残りやすいという研究結果もあります。これらが、老害力を上げる要因になっているとお考えください。
例えばYさんの場合、1~2カ月前の飲み会で何をテーマに話したかは忘れてしまっていても、そこで話した大昔の体験の内容はしっかり覚えているのです。
武勇伝などの自慢話が多くなるのは、嫌な記憶ほど忘れやすく、いい記憶は残りやすいという人間の特性によります。
だから、若者に過去の武勇伝を話したことは忘れてしまっている(あるいは曖昧になっている)にもかかわらず、その武勇伝の内容は鮮明に記憶されているため、何度もその話題に触れるという現象が起こるのです。
若者たちからすれば、老害的行動かもしれませんが、そこにはやむを得ず起こる理由が存在するということを、理解しなければならないでしょう。
Yさんはただただ武勇伝をひけらかしたいのではありません。ちゃんと覚えていて、なおかつ話題にしやすい話を持ち出すことが、結果的に同じ話のくり返しになり、周囲には“お決まりの自慢話”に聞こえてしまうだけなのです。
【参考文献】
1)佐藤眞一ら:『よくわかる高齢者心理学』 ミネルヴァ書房