なぜ老害化が進むのか
店員さんにほとんど落ち度はないかもしれない
この高齢女性を仮にTさんとしましょう。大声でまくしたてることの是非はさておき、もしかしたら本当に店員さんのお釣りの渡し方が乱暴だったかもしれないので、Tさんのほうが悪いと決めつけることはできません。
いいがかりや理不尽なクレームではなく、実際にあった店員さんのミスを指摘している可能性があります。
その一方で、店員さんにほとんど落ち度はなく、ていねいにお釣りを渡したにもかかわらず、Tさんが落としてしまった可能性も否定できないでしょう。
というより、おそらくこちらが事実という公算が大きいと思います。
なぜなら、次のような理由が考えられるからです。
人間は50代になると手に持っている物の感覚が弱まり、70代からその傾向が顕著になります。すると、物を落としやすくなるのです(※1)。
また、65歳以上になると手先の感覚は若いころの半分になり、物を持つ力は30%減少するという報告もあります(※2)。
つまりTさんは、加齢による触覚の変化により「お釣りを乱暴に渡された」と感じ、そのうえで物を持つ力が落ちてきているので、うまく小銭をつかめず下に落としてしまったかもしれないのです。
そして、その後の店員さんの謝り方や声のボリュームに対して文句を言っているのは、Tさんの聴力に起因すると考えられます。
加齢にともなう聴力の衰えも否めません。じつは70代で半分近く、80代以上では70%以上の人が難聴になることが研究でわかっています(※3)。
この店員さんは若い女性なので、真摯に対応していても、Tさんは「声が小さくて誠意が感じられない」と受け取ってしまったのかもしれません。
このように、Tさんがお釣りの渡され方を乱暴に感じるのも、小銭を落としてしまうのも、店員さんの声が小さく聞こえて誠意がないと感じるのも、その背景に加齢による身体変化があることは論をまたないでしょう。
無自覚のうちに、老害力はどんどんアップしていってしまっているのです。
しかしいずれにせよ、小銭を落としてしまったあとの対応はやりすぎです。周囲の人たち(ほかのお客さん)への配慮が、著しく欠けています。こういう行動をくり返していたらいつの間にか「社会の壁」ができ、その厚みはどんどん増していくことになるでしょう。