周りの老害に配慮するコツ
振り上げた拳を無理なくおろしてもらうために

高齢者がコンビニ店員にキレる本当の理由医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)

 お客さん側ではなく、店員さんの立場だったらどう対応するのがベストでしょうか。
 
 お店とお客の関係に限らず、自分の正義感を強く主張してくる高齢者と対峙するシチュエーションをすべて含めて考えてみましょう。絶対にやってはいけないのが、相手(高齢者)がかざす正義を真っ向から否定することです。

 もちろん、「間違っているのはあなたのほうです」や「その考え方は古くさいからやめたほうがいいですよ」などが典型的なNGワードになります。
 
 先ほどのTさんのケースでいえば、店員さんが「お釣りはちゃんと渡しましたよ!」と反論するのはいただけません。火に油を注ぐだけで、事態はさらに悪化してしまうでしょう。

 大切なのは、折れることと降りることです。自分は間違っていないと思っても、その意識をいったん封印し(折れる)、自分のほうが正しいとは思わず、へりくだって相手に受け入れてもらうようにする(降りる)と、正義感を主張する高齢者も振り上げた拳をおろしやすくなるでしょう。こちらから、相手の老害力を下げるアプローチをすることは可能なのです。

高齢者にうまく話を伝える王道テクニック

 Tさんにまくしたてられていたコンビニの店員さんは、しっかりこれを実践(謝罪)していました。しかし、高齢者の聴力が弱くなっていること、しかも若い女性の言葉が聞き取りにくくなっていることが頭になかったため、声が小さく、態度がよくないと受け取られてしまいました。こを理解し、Tさんにちゃんと伝わるように話していたら、状況は変わっていたかもしれませんね。

 正面からゆっくりと話しましょう。ただ大声で話すよりも、そのほうが相手に伝わりやすくなります。

 そしてこの手のトラブルは、同世代間や知人間でも起こり得るのでご注意ください。
 
 Tさんのように自分の正義感を信じて疑わず、強く主張してくるタイプの人は「社会の壁」をつくりやすく、ささいなことがきっかけで突如絶縁を切り出してきたりします。知り合いとの関係性が悪くなるのは気分のいいものではないので、売り言葉に買い言葉にならないよう、折れることと降りることをつねに頭の片隅に置いて接していきたいですね。

【参考文献】
1)内田幸子ら:高齢者の皮膚における温度感受性の部位差 日本家政学会誌 2007; 58(9): 579-587
2)Ranganathan V K et al. Effects of aging on hand function J. Am Geriatr Soc 49 1478-1484, 2001
3)内田育恵ら:全国高齢難聴者数推計と10 年後の年齢別難聴発症率:老化に関する長期縦断疫学研究より 日本老年医学会雑誌 2012;49(2):222-227