かつて3000校以上存在していた
女子校は約270校まで減少
「女子校出身者は空気が読めないイメージ。異性と一緒にいる共学だと、自分とは違う相手の価値観や考えを知ることができる。異性とのコミュ二ケーションを学んでいくことで、女性としてのちょうどよい振る舞いが身に付くのではないか」(45歳/Aさん)
「女子校で育つと異性を苦手になってしまうのではないか。異性を理解できないまま社会に出ると生きづらくなると思う」(38歳/Bさん)
「女子校はリーダーシップ教育を掲げているところが多いと思うが、男女が共生する社会の中でリーダーになるには、共学の中でリーダシップを培う必要があるのではないか」(42歳/Cさん)
男女平等が叫ばれる世の中において、異性がいない環境で思春期を過ごすことに抵抗を感じている方は、少なくないようです。実際、女子高校の数は、3000校以上存在していた1960年代後半〜1970年代までをピークに徐々に減少。2023年時点で269校となりました(文部科学省「学校基本調査」2023年)。現在は共学校がスタンダードであり、共学校に入れたい保護者が大多数だということがわかります。
一方で、桜蔭学園、女子学院、雙葉学園のいわゆる中高一貫女子校の御三家や、慶大付属の慶應女子などは、今も人気が安定している印象を受けますし、「女子校派」の保護者も根強く存在しているように感じます。
「女子校で育ったことで上品な振る舞いが身に付いた。ジェンダーフリーといわれるが、女性としてお嬢さんらしさも大切だと思う」(50歳/Dさん)
「共学に入れると男女関係が出てきて心配。いろいろなことに煩(わずら)わされず、学生のうちしかできない勉強ややりたいことに集中してほしい」(39歳/Eさん)
「女子校は仲間との絆が強いし、女子同士のコミュニケーションがうまくなると思う。一生ものの友人をつくってほしい」(42歳/Fさん)
「最近の女子校は、デジタルや理系、リーダーシップ教育に力を入れているところも多く、進学率も高い。これからの時代、リーダーシップのある女性に育ってほしい」(41歳/Gさん)
「共学だと異性からの視線が気になり、思春期は自分を出せなくなってしまうのではないか。ジェンダーフリーの環境の中に身を置くことで、『女だから』とあきらめてしまうのでなく、やりたいことに打ち込んでほしい」(46歳/Hさん)
「共学派」も「女子校派」も、価値観や考え方はさまざまですが、特にジェンダー問題やリーダシップについては、双方の認識に差異があるようです。
アカデミアの世界でも、女子校教育と共学校教育の効果や違いについて、さまざまな議論がなされています。
米国の心理学者であり、男女別学推進論者であるレナード・サックスは、女性脳と男性脳には先天的な差異があり、諸能力の発達の順序や時期、脳の構造は異なるという点に着目し、発達段階の男女は、別々に教育することが望ましいと主張しています(『男の子の脳、女の子の脳:こんなにちがう見え方、聞こえ方、学び方』草思社、2006年)。
一方で、米国の神経科学者であるリーズ・エリオットは、男女の脳の先天的な差異を認めながらも、その差異は、子どもたちの行動にある程度、傾向を与える程度であり、決定的ではない、と主張した上で、「共学校は互いの特性から学ぶことが多い」という立場をとっています(『女の子脳 男の子脳 ―神経科学から見る子どもの育て方』NHK出版、2010年)。
また、女子校という異性がいない環境の中で過ごすことによって、「ジェンダー観が偏る」とする論調もあれば、暗黙的に男性を優位とする共学校のカリキュラムによって、「ジェンダーの固定概念が強化される」という論調もあります。
リーダーシップに関する教育についても、「女子校は女子だけの中ですべての役割を担うため、リーダーシップが培われる」と述べる研究者もいれば、「異性のいる中でリーダーシップを取る力がなくては社会で通用しない、多感な学生時代は、その後の人間関係や人生を考える基礎になるため、異性と向き合って共に協力し、問題解決をする体験こそ重要」と述べる研究者もいて、研究者によっても意見は分かれたままのようです。
以上を振り返ると、女子校と共学校に対する世間のイメージや考え方は、驚くほど多様だということがおわかりいただけたかと思います。しかし、なぜこうも多様なのでしょう。
もちろん、女子校や共学校と一口に言っても、校風も教育理念もさまざまです。地域性も偏差値も異なりますし、信仰のある学校もあります。となれば当然、どこの学校で育ったかによって、個人の性格や特性は変わってくるでしょう。生徒の個性や家庭環境なども影響するはずです。こうした、「女子校か共学校か」という要因以外が個人に及ぼす影響も大きいため、こうした多様なイメージを生んでいるといえます。
とはいえ、やっぱり、「女子校育ちっぽさ」というのはどこかにある気がします。かく言う私も、思春期の何年かを男性のいない環境に身を置いた経験が、自分自身に何かしら影響を及ぼしているはず……と思ったことが、女子校研究を始めたきっかけでもあります。