隣の大国、中国の力を
利用する「舞の海戦略」

――この転換の方法論を、ユニークな命名で「舞の海戦略」と本書では示しています。

 高度経済成長時代のインセンティブはサイズ(規模)でした。経済産業省(当時は通商産業省)は産業政策で、企業が規模をより大きくすることに対してインセンティブを付与しました。競争相手となる巨大な欧米企業への対抗上でも、規模拡大が必要と考えられました。

 また、企業の売上高が伸びていけば、雇用数が増えます。規模拡大を奨励するメッセージを政府が出し、そのために事業の多角化も推進しました。

 しかし、バブル崩壊で、事態は一変します。負債、人、資産の「3つの過剰」があり、経営の効率化が求められ、事業の「選択と集中」時代に入ります。1998年以降の「選択と集中」version1.0と、2010年代のversion2.0があり、前著『再興THE KAISHA』(日本経済新聞出版社)では詳述しました。新著『シン・日本の経営』では、その後の転換にフォーカスしています。

 転換の戦略を、前著で「集合ニッチ戦略」と称していたのを、新著では日本人読者向けに「舞の海戦略」と命名したのです。

 日本人にはなじみがあると思いますが、相撲力士の舞の海は他の力士に比べると体が小さいですが、現役時代には「技のデパート」と呼ばれたように、いろいろな技を使って強かった。当時、ライバルの小錦や曙などの巨大な力士に対して、相手の力や大きさを利用するようにして勝っていました。勝つためにどうすべきかを考えて、技を磨いたのです。

 日本企業が、台頭する隣の大国、中国の力を活用して収益を上げるのを研究していて、私はファンだった舞の海の勝ち方を連想したのです。

――前著『再興THE KAISHA』(日本経済新聞出版社)にはなく、本書に加わった図表が、バブルチャートです。

 図3は、世界市場の規模(縦軸)と世界シェア(横軸)の座標に、産業別に日本企業の売上高合計(バブルの大きさ)を示したものです。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「2022年度日系企業のモノとITサービス、ソフトウェアの国際競争ポジションに関する情報収集」からのものです。