大企業が複数のニッチ商品
日本全体で「集団ニッチ」
もっとも目立つオレンジ色バブルは、自動車です。大きいバブルはガソリン車で、小さいのはハイブリッド車です。自動車市場は世界で合計すると、1000兆円近い。そのうち日本企業は25%程のシェアを占めていることを示しています。
黄色のバブルは車のための部材や素材、青色はエレクトロニクス系最終製品、ピンク色は医療・バイオテック系製品です。これらは、この調査で取り上げられた業界の製品で、現実にはもっと多くの製品が存在します。
NEDOの報告書には、日本と比較して、韓国、台湾、中国、米国、EUのバブルチャートが掲載されています。韓国にはサムソンやLGという大企業があり、テレビなどの電機製品が強くて大きなバブルがいくつかあり、台湾は一部の産業で中くらいのバブルが点在しています。急成長している中国は、自動車や金属などで大きなバブルが多くある。
米国は、半導体やバイオ産業においてシェアの高い位置にバブルがいくつもあります。バイオでは他国に比べて規制が緩いので、スタートアップが成長して、世界シェアが高いのです。
――このバブルチャートは、国ごとに個々の産業競争力が一目瞭然で、面白いですね。
私にとって、日本のチャート(図3)で面白いと感じたのは、右端の小さなバブル群です。それは、グローバル市場占有率80%〜100%という産業が日本には多いことを示しています。その内実を調べてみると、日本企業がまさにテクノロジーのグローバルリーダーとして強い存在になっていることがわかったのです。
この調査は2021年のもので、1024製品カテゴリーを分析しています。全産業・全製品ではなく1024製品ですが、その中の409製品で日本のシェアは50%以上です。そのバブルは小さいですが、数が多い。すべて合計すると、ものすごく大きなインパクトになっています(注:編集部で対象の概要を図3に赤の点線で囲った)。
「日本の技(技術)のデパート戦略」だと私は考えました。いろいろな技術を持ち、それら全体で世界市場を支配する状態です。
――日本のバブルチャートの変化を、本書では示しています。
本書『シン・日本の経営』では、図3と同様の形で、2006年と2016年日本のバブルチャートを示しています。2つのチャートを比較すると、技術の種類が多くなっていることがわかります。舞の海が技を磨いて、強くなったのと似ていると思い、「舞の海戦略」と名付けたのです。米国人向けの前著では、学術的に「集合ニッチ戦略」と称しています。
この戦略には、2つの特徴があります。1つは、一企業が複数のバブルで支配的存在になっていることです。例えば、日東電工は先端材料の隣接市場で多くのニッチ商品を手掛けています。ファナックは、ロボットやファクトリーオートメーションなど複数の分野でシェアが高い。
もう1つの特徴は、複数の日本企業で、ある分野で高いシェアを握っていることです。フォトレジスト(半導体製造の必須素材)ではJSRとTOKで、特殊鋼ではいくつかの鉄鋼会社で高いシェアを占めるという具合です。
そして、それらの企業は、“隠れ”チャンピオンという話ではありません。日本製鉄やパナソニック、村田製作所、富士フイルムといった上場の大企業が多く、この範疇に入っています。
つまり、舞の海戦略は、今日の日本の大企業のシン・競争戦略、日本の大企業のディープテック・イノベーション戦略と言えるのです。
――前述されたiPhoneのサプライチェーンで、日本の素材や部品を韓国や台湾に輸出し、そこで半製品にして中国に輸出し、中国で完成品を組み立てるという関係は、その1つの典型事例ですね。
バリューチェーンで考えると、日本企業の付加価値が高く、高い利益を上げています。
*連載第3回「日本経済の再浮上をけん引する大企業の特徴」は、明日公開です。