身につけるものを工夫して
熱中症、脱水症、低体温症を防ぐ

 登山家の間で今、圧倒的にはやっているのは、ドライウエアです。汗をたくさんかいても乾くので、常に乾いた状態を持続する。生心地が良く、低体温になりにくい。

――ユニクロやワークマンでもそうしたシリーズが売っていた気がします。

 ファストファッションのものよりも、finetrack(ファイントラック)やMILLET(ミレー)など、登山に強いアウトドアメーカーが出しているもののほうがいいですね。あみあみで肌が丸見えなので、それだけを着て街で歩いていたらやばいやつと思われそうですが(笑)。ただ、結構、締め付け感があるので、私は夏はあまり着ません。冬は汗冷えを防止するために着ますが、やはり好み次第と思います。

――ドライウエア以外の普通のTシャツはだめですか。

 吸湿速乾性のTシャツならいいと思います。ユニクロでも、化学繊維の乾きやすいタイプとか。できれば吸水性があるものにしていただきたいです。逆に、綿は絶対にやめたほうがいいです。汗や雨で濡れた服が乾かず、低体温症のリスクが高まります。

――靴は登山靴を買っておくべきでしょうか。

 一番は、履き慣れている靴です。スニーカーでもいいのですが、歩いていると砂利が入ってきます。私は足つぼマッサージのようでそこまで気にはならないのですが、気になる人も多いと思うので、砂利が入らないようにするスパッツをはいておくと、不快感がなくなります。

 ベストは防水性の登山靴です。足首までしっかりガードしてくれるので、砂利が入るのも防止してくれます。スニーカーの場合、雨が降ると水が染み込んで靴の中が冷たくなってしまうんですね。雨の日に長く歩くと、足先が冷えて凍傷や低体温症になることもあります。ですので、防水機能が備わっている登山靴またはトレッキングシューズを用意できれば、身を守る上では安心です。ただ、防水機能を備えたものはGORE-TEX(ゴアテックス)製とかになってくると思うのですが、それなりに値段はします。

――やはりゴアテックス製が良いのでしょうか。

 ほかのでもいいんですよ。ゴアテックスというのは商標で、以前は防水機能と透湿性を備えた靴というのはほかにあまりなかったのですが、最近は、空気が外に出ていく透湿性を備え、なおかつ防水機能を持つ靴というのは増えていますので。ただ、ナイロン製の防水性の長靴とかは、蒸れるのでよくないです。山で汗をかくと、熱中症や脱水症になりやすいので。

「今後、登山やハイキングをするかどうかわからないのに、今回だけのために登山靴を買うのは……」という人は、レンタルもおすすめです。スキー場でも道具をレンタルしますよね。山梨県側でも、静岡県側でも、山道具のレンタル屋さんというのがあり、いいものを用意してくれるので、これを活用するのも選択肢のひとつかと思います。ただ、どうしても初めての靴ですと、靴ずれのリスクはあるので、そこはご自身が判断するしかありません。

――雨具や防寒具も必要と思いますが、同様にナイロン製の雨具もNGってことですよね。

 ナイロン製の雨具はむちゃくちゃ蒸れます。大量に汗をかくと、脱水状態になりますし、その後に休憩して汗冷えをすることもあります。8月の富士山の平均気温って、東京や大阪の平均気温と同じか、それよりも少し低いぐらい。つまりは大都市の真冬並みの寒さなんですね。それに風もあります。山の上は急に天気が変わったりするので、よくポンチョを着て震え上がっている人がいます。

 ポンチョだと体をきちんと覆えないので、いろいろな所から雨が入ってきたり、風が吹くと巻き上げられてそこから濡れてしまう。保湿性もあまりない。もちろん、何もないよりは全然ましですが。本当はいけないのですが、トイレに入ってそこで雨風をしのいだりする人もいます。そうならないためにも、しっかりとした雨具と防寒具は必須です。ただ、ポンチョだけを持って富士山に登る人は、昔は多かったですが、今はだいぶ減ってはいますね。外国のかたは多いですが。

――日本の登山客のリテラシーが上がってきたということでしょうか。

 そうですね。市販のアウトドアグッズが充実しているのと、登山前にレンタルを活用する人が増えてきたのだと思います。

――帽子はあったほうがいいと思うのですが、サングラスはどうでしょうか。

 サングラスもあったほうがいいと思います。紫外線もありますし、地面からの照り返しもあるので。

――軍手か手袋もあったほうがいいでしょうか。

 そうですね。軍手は濡れると保温性がまったくなくなりますので、化学繊維か毛の、手袋が良いです。先ほども少しお話しましたが、8月の富士山の平均気温は大都市の真冬並みなので、あったほうが安心です。

 あと、薄手の手袋は重宝します。風が強いと、スマホとかを操作するときに手袋を外した際、手袋が飛ばされてしまうリスクがありますし、雨が降っていれば手が冷えてしまいます。なので、薄手の手袋と厚手の手袋の両方を用意しておくと良いでしょう。薄手の手袋を着けたままスマホを操作し、寒いときはその上に厚手の手袋もする。今回は夏の話なので、薄手の手袋だけでもいいかもしれませんね。私は、初めての人と行くときは、万が一のために予備をひとつ用意しておきます。

――富士山の山小屋などで買える「金剛杖」を持って登っている人をよく見かけますが、やはり杖(つえ)はあったほうが便利なのでしょうか。

 昔の行者(ぎょうじゃ)さんのような雰囲気を味わえますし、記念品にもなりますが、登山をサポートするグッズとしては、重いですし、少し使いづらいかもしれません。トレッキングポールは軽くて操作しやすく、私は重宝していますが、人によっては邪魔になることもありますし、持っていくかどうかは好みに合わせてかと思います。

――転びそうなときにポールは便利な気がします。

 転びそうなときは、逆に、ポールは離したり、お尻から転んだりしたほうがいいですね。

――そうなのですか?

 体重をぐっとかけるものではないので、変に踏ん張ってしまうと、手首の骨が折れてしまったりします。また、ポールの先の地面が雨で濡れたり、石がずれたりすると、ポールを使ったことで転倒してしまうこともあります。

 ですので、少し体を支えるとか、段差があるときに活用するとか、あくまで補助的に使うもので、体重をかけてはいけません。膝などに不安があるかたは、下りるときにポールがあると、負荷を軽減してくれます。私も慢性骨髄炎という病気をして足に不安があるので、必ずポールを持っていきます。

――ポールに頼りすぎてはいけないのですね。

 そうですね。なるべく地面に対してポールを直角に置いていくことが大切です。そうしないと滑ってしまいます。

――ライトはどうでしょうか。