登山に特化したアプリやサービスを活用して
道迷いや荒天のリスクを減らす

 夜間に登山をする人は、当然、必要です。夜は登山せずに山小屋に泊まるという人も、ライトがないと、トイレなどに行くとき危険です。狭かったり、段差があったりして、山小屋の中でけがをする人は意外と多いんですよ。二段ベッドもありますからね。

 日帰りの人でも、万が一、捻挫したり、体調を崩したりして、何かの理由で下山が遅れることもないとはいえないので、念のため持参したほうが安心です。両手の空くヘッドランプがベターだと思います。最近のヘッドランプはめちゃくちゃ軽く、荷物が重くなるストレスはありませんし、これもレンタルできます。最悪、スマホのライトを使うという手もありますが、スマホを落として壊れてしまったりする恐れがありますし、手に持ちながら暗闇を進むというのは危ないですからね。

――コンパスは不要でしょうか。

 本当はきちんと、地図の見方とか、コンパスの使い方とかを勉強したほうがいいのですが、富士山は所々に道標がしっかりと置いてあるので、ほかの山に比べると、道に迷うリスクはそれほど高くはありません。ただ、下りに関しては、途中、須走口と吉田口で分岐する地点があるので、そこを間違えると戻るのがとても大変です。ですので、コンパスがなくても、そうしたポイントを押さえておくようにはしたほうが良いと思います。

 今、登山用のアプリやサービスがいろいろとあって、例えばヤマレコさんの「YamaReco」は、国内外の山で利用できるアプリですが、「富士山アプリ」という富士山登山に特化したアプリも出しています。GPSを使って、今、自分は富士山のどの辺りにいて、頂上まであとどのくらいかなどが、一目でわかるようになっています。あらかじめ登りと下りのルートを指定しておくとルートを外れたときに警告もしてくれるんです。こうしたアプリを活用して、道に迷うことを防ぐというのもひとつの手かなと思います。

――富士山は電波はつながるのですか。

 バッチリつながります。

――モバイルバッテリーもあったほうがいいですよね。

 そうですね。日帰りや1泊なら小型のものでいいので、予備バッテリーがあると安心ですね。マナーモードや機内モードにして現在地を確認するぐらいであれば、そこそこ長持ちしますが、1泊2日だと持たないかもしれません。GPSで自分の居場所を常にログで取得していくタイプのアプリを起動していると、1日も持たないことがあります。

 山の遭難というのは、気象を要因とする「気象遭難」が大多数です。気象遭難を減らすためにどういうことをしていけばいいのかをわかりやすくまとめた「気象遭難を起こさないための安全登山ノート」(yamaten.net/_files/ugd/9b3bb6_89c2a5ca32a24ff7b98cf65c02781c03.pdf)を作成し、先日、公開しました。ご自由にお使いいただけるので、安全な登山のためにどんどん広めていただければと思います。

――富士山登山に、ほかにも便利なアプリやサービスはありますか。

 うちが運営する「ヤマテン」は、山の気象情報に特化したWebサービスですが、山の天気予報の精度はかなり高く、落雷や強風、低体温症などの具体的な気象リスクが表示されるので、皆様の安全登山にお役立ていただけると思います。最初の登録時には7日間無料でお使いいただけますので、富士山に登る前に登録して、その後、登山をされないかたは解約することも可能です。あまりおすすめしたくはありませんが(笑)。

――「富士山の天気」で検索すると、無料で見られるサイトがたくさんありますが、有料ですとどう違うのですか。

 無料の場合は、お天気マークの上に信頼度をABCで表した「ABC判定」だったり、コンピュータがはじき出した計算結果をそのまま掲載していたりと、あまり精度が高いとはいえません。「晴れ」といっても、風が強いのか弱いのかによってだいぶ気象リスクが異なります。風速が示されていてもだいぶずれていたりします。

 登山においては風の強さがとても重要なんです。体温を下げたり、本当に風が強いときは吹き飛ばされたりするので。山頂が平均風速20メートル以上になっていると、まず登山は無理です。一般的に15メートル以上になると、バランスを崩したり、突風でよろめいたりします。自分が登山する時間帯にそうした予報が出ているときは、登山はやめるべきでしょう。事前にチェックしておけば、富士山へ行ったけど結局、登れなかったということを避けることができます。

 風速の予報の精度が高くないと、例えば、実際に25メートル出るときに、予報では4〜5メートルと表示されていたりと、全然あてにならなかったりします。その点、ヤマテンは風速の予報精度が高く、富士山を含め多くの山の情報は、山岳気象に精通した予報士が直接、予報しているので信頼度も高いです。よく登る山を「お気に入り」に登録しておくことで、荒天や雷の情報がメールで届くようになりますが、多くの山の情報は、山岳気象予報士が直接、発信しています。

 あと、富士山で怖いのは、雷なんです。ひらけているので雷から逃げられる場所がほとんどありません。たとえ土砂降りの雨でも、山小屋は宿泊客以外は入れないので、自分で自分の身を守るしかない。山小屋の軒先で雨宿りをする人たちもいますが、あれが一番やばいんです。軒先は、屋根に落ちた雷が地面へ向かう通り道となります。土砂降りで濡れたくないからとそのような所へ避難していたら、真っ先にやられてしまいます。

――確かに山小屋もキャパは限られていますものね。

 早い段階で天気が荒れるという情報をキャッチして、お茶とか食事をしていれば、あるいは1人や2人なら入れてくれるかもしれませんが。いずれにせよ、早め早めに安全な場所に移動することが大事です。

 私たちは、吉田ルートのすべての山小屋と、山梨側で活動するガイドさんには、落雷の危険情報は随時、送っていますし、ヤマテンのユーザーにも送っています。今後1時間の雷や雨雲の様子を、休憩時や雲行きが怪しくなってきたときにチェックしておくといいと思います。

 ただ、雷というのは急速にやってくるので、危険情報が届く前に雷に襲われる可能性もあります。雷の音がしたり、急に周囲が暗くなったり、寒くなってきたり、風向きが変化したり、風が急に強まったりしたときは、なるべく落雷や強雨から安全な場所に避難しましょう。

――今、ヤマテンのWebサイトを開いていますが、富士山の情報を見るにはどうすればいいですか。

「山検索」で「富士山」を検索すると出てきます。表示されているピンのマークを押すと「ピン固定」され、ホーム画面に戻ると、ピン固定した山の情報が常に最初に表示されるようになります。雨雲や雷の予報を見たいときは、「気象レーダー 雨雲・雷の動き」というタブを開き、「雨雲」か「雷」、どちらの情報を表示させるか選びます。すると、現在時刻から前後1時間の雨雲や雷の動きを見ることができるので、ここで、活発な雨雲がないか、雷雲が近づいていないかをチェックします。

 画面下の「専門天気図」を押して、日時の所にある矢印をどんどん押していくと、これからの3時間ごとの雨雲の動きが見られます。これ、10日先まで見られるんですよ。また、「専門天気図」内の「ガイダンス」から「雷」を選択すると、3日先までの雷の予想も見られます。ですから、登山の日の雨や雷の予想はどうなっているか、事前にチェックしておくと安心です。「コラム」の「無料動画講座」からヤマテンのYouTubeチャンネルに飛ぶのですが、「天気図の見方」の第4回に、雨雲や雷の動きのより詳しい見方を載せています。

――富士山以外の山も対象ということですよね。いじっていると楽しいですね。登山だけでなく、観光へ行く際にも便利そうです。

 国内の330の山が対象です。情報は、「スペシャル予報」の場合、夕方17時ぐらいに更新されます。スペシャル予報というのは、数値予報を基にした自動計算結果のみに頼ることなく、富士山を含む全国の代表的な60山を対象に、山岳気象に精通した気象予報士が、山特有の気象条件や地形などを検証し、自らの登山経験や予報経験などを生かして手作りで作成しているものです。アルゴリズムで作成している「ノーマル予報」の場合、1日4回更新されます。

――天気に関するサービスやアプリって、どこも同じようなものかと思っていました。安全面を考えると、こうした精度の高い予報というのは、無料公開されていても良さそうな気がしますが、なぜそれは日本ではなされていないのですか。