「もし天気予報がなかったら…?」日本最年長のお天気キャスター、森田さんに聞いてみた!「人間の世界も気象と同じで、安定が長続きすると必ず不安定が大きくなります」Photo by KMGs

「気象予報士とお天気キャスターの違いは?」「予報が外れたら反省するの?」「人々が天気予報に求めるニーズは時代によって違う?」「天気予報は人間はAIに絶対にかなわない?」「気象業界の人が好きな天気は?」「これから気象予報はどのように進歩していくの?」「気象の世界と人間の世界の共通点とは?」――。日本最年長のお天気キャスターである森田正光さんに、素朴な疑問を次々とぶつけてみました。果たして森田さんの答えは?(聞き手・構成・文:探究集団KUMAGUSU)

ドラクエのように経験値を上げると
仕事が楽しくなってくる

――天気を伝えるときに日々、意識していることはありますか?

森田正光(以下、森田) 私は「天気予報の定型文」が嫌いなんです。「広い範囲で雨が降るでしょう」「多くのところで気温が高くなるので夏バテに気をつけましょう」「空気が乾燥しているので火の元には十分、注意しましょう」など、一度ならまだしも、同じ番組内で何度も繰り返されたら、視聴者はつまらないですよね。

「注意」と言えば、もちろん伝える側は得です。皆が困るほうにベットしたほうがリスク取らなくて済みますからね。ビジネスパーソンに向けて専門家が株価や円安について語るときもそうですよね。ですから、自分が思っている本当のことを言うように心がけています。

 とはいえ、たとえ小さな台風でも「この台風はたいしたことはない」と言ったら怒られるので、やむを得ず定型文のようなことを言うケースだってもちろんありますよ。そうした心の葛藤というのは常に存在します。

 お天気キャスターも多様化していかなければなりません。知識の量に比例して言葉の種類も豊富になり、解説も深まっていきます。RPGのドラクエのように、たくさん訓練して実践を積んでスキルを上げていく。知識を表面に覆うのではなく、経験値が上がれば仕事に深みが出てきます。これはお天気キャスターだけでなく、あらゆる職業でもそうですよね。スキルが上がり熟練してくると仕事も楽しくなっていきます。そのような職業は素晴らしいものです。

 熟練すると、(天気図や気象データなどの)局面をパッと見れば、その日の天気の状況はすべてわかるんです。もちろん、悩む場面もありますが、たいていは答えは一瞬にして出るものなんですね。「冬型がゆるんできている」「東京は寒くなる」「明日は晴れる」など、プロであれば瞬時に言えなければなりません。

 昨年のワールドカップでも、解説者の熟練度によってだいぶ解説は変わってきますよね。本当にすごい解説者というのは、まったく別の試合などを複合的に分析して「この人はこういうパスが得意だ」といったことが言える。全体を俯瞰してみることで、必要な情報が自然と向こうから入ってくるようになるんです。でも熟練していない人ほど目先のボールを追いかけます。

 私がそのレベルに熟練しているかどうかはわかりませんが、少なくとも長年やってきているので、多少はそうした訓練ができるようにはなっているのではないかと思います。

――人々が天気予報に求めるニーズというのは、時代とともに変わっているのでしょうか?