「ディドロの後悔」に学ぶ
「自分らしさ」の大切さ

 フランスの哲学者ドゥニ・ディドロについて、こんな話があります。「ディドロの後悔」と呼ばれる話です。

 あるとき、ディドロは素晴らしい緋色のガウンをプレゼントされました。あまりにも綺麗なのでうれしくてそれを着て椅子に座ったら、素晴らしいガウンと汚れた椅子が合わない。新しい椅子に替えてガウンを着て座ったら、今度は使いこんだ書斎の机やなじみの本棚が全くのミスマッチ。ならばと、全部を新しく替えてガウンを着て座ったんです。すると、とてもマッチしたけれども、非常に居心地が悪い。それでディドロはものすごく後悔して、素晴らしいガウンに対して怒りを感じた、というお話です。

 この話に共感する人は多いのではないでしょうか。私たちも、良いものを一点でも持とうと考えがちです。お金がなくても、ブランドもののバッグを1つだけ買う。ところがバッグだけ買っても似合わない。そこで服や髪型も変えて全部を合わせようとすると、自分らしさがなくなって居心地悪く感じてしまう。

 以前、フランス人の知人から、「フランス人は宝くじが当たっても最高級の三つ星レストランには行かない」という話を聞いたことがあります。もし宝くじが当たったら、「自分たちの行きつけの店で最高のワインを飲んで一番美味しい料理を食べる。それが一番、心地いいから」と。なるほど、と納得しました。

 これまで私たちは、ものが豊富にあれば、外的な条件がたくさん揃えば幸せになれると思ってきました。高級車を1台買えば幸せになると思って、それを求めてきました。ところが、それに合わせて全部を変えているうちに、知らぬ間に自分にとっての心地よいものを手放してきたのではないでしょうか。

 現代社会は、グローバル化が進み、ものも情報もあふれています。だからこそ大事なのは、自分が本当に心地よく生きるためには何が必要かを、しっかりと見極めて必要なものを選び取っていく力だと思います。