他者と比べて不幸を
感じるという不幸

 お金持ちが多く住み、かつ貧しい人も住んでいるという収入格差の大きい州と、お金持ちではないけれども、だいたい同じくらいの所得の人が住むという州の幸福度を比較したアメリカの調査があります。その結果は、収入格差の大きい州ほど幸福度が低いと出ました。

 また、2012年、私は3000人を対象に、ある調査を行いました。それは、経済的な豊かさとコミュニケーションがどう関係するかというものです。女性の場合、経済的ゆとりがなくなると、まわりとのコミュニケーションが悪くなる。とくに、若い女性では友人関係が疎遠になり、中年女性の場合は、親戚や近所の人との関係が悪くなるという傾向がありました。

 一方、中年男性は、ほしいものも手に入れてないし、それほど豊かではないと答えているにもかかわらず、コミュニケーションには影響がない。それは、自分だけでなく、同世代の皆も大変なのだという意識が強いからではないでしょうか。

『でんでんむしのかなしみ』(文・新美南吉)という童話があります。でんでんむし(かたつむり)は、ある日、自分の殻に悲しみがつまっていることに気づき、殻を背負っていることがつらくて生きていけないと思うようになる。

 しかし、まわりのでんでんむしに聞いてみると、「私の背中にも悲しみがいっぱいです」と言われる。そこで、主人公のでんでんむしは、「私だけではないのだ」「みんな同じように背負っているのだから生きていこう」と思うのです。

 経済的豊かさと人生の幸福度・満足度に関する調査を通してわかったことは、多くの人は他者と比べるなかで幸・不幸を決めているということです。

 人は、他者との比較のなかでしか幸福を感じられないのでしょうか。私は、そうではないと思います。では、どうしたら自分で幸せを見出し、生み出していく「幸福力」を高めることができるのでしょうか。