暦本 そうそう。ハプティクスの専門知識がなくても、「ホキホキにしてください」といえば、AIが「了解しました」といってデザインしてくれるかもしれない。

落合 オノマトペを誤解すると、グラフのカーブがちょっとズレたりしそう(笑)。

暦本 感触が違ったら「もうちょっとホキッとできるかな」とお願いしたり。

落合 そのちっちゃい「ッ」があるかないかで、カーブの跳ね具合が変わるんですね。そういう意味では、ダンスとオノマトペの関係は面白い。ダンスはダイレクト・マニピュレーションなんだけれど、動きの指示には言語も使いますよね。たとえば「もっと手をホコッとして」と伝えたとき、動きがどう変わるか。僕は最近はそんな研究をしているんですけど。

暦本 まさに長嶋の打撃指導ですね。長嶋の頭の中には完全に動作と一致したオノマトペ空間があって、「このスイングはヒュイ」「このボールのとらえ方はヒョイ」などと決まっているわけですよ。そういう長嶋脳を解析してふつうの人の脳に入力できるようになると、万人向けの体系的なコーチング技術になるかもしれない。

落合 長嶋本人のプレー中に脳の記録を取っていたら、「ヒュイ」と「ヒョイ」の違いが生理学的にわかるかもしれない。

暦本 なるほど。ヒュイとヒョイの違いが、じつは脳に現れている。

未来の人類は
「口笛言語」で会話する?

落合 ダンス以外にも、ゴルフの「チャーシューメーン」(*5)とか、言語と運動の象徴のオーバーラップはいっぱいあると思うんです。たとえば砂浜を歩いて「サクサクした砂だな」と頭が認識したら、それを踏んでいる足の音は「サクサク」と聞こえるじゃないですか。「自分はサクサクとした砂浜を歩いている」という認識のオノマトペが反復されて耳に聞こえているような気がちょっとしているんです。