書影『2035年の人間の条件』『2035年の人間の条件』(マガジンハウス)
暦本純一 著、落合陽一 著

暦本 ああ、中途半端なシンボルがね。

落合 そうです、中途半端な半言語情報ぐらいのシンボル。

暦本 音響ではないけれど言語でもないような状況。そもそも言語の起源については「歌起源説」とか「鳥起源説」とかいろいろありますよね。「ネアンデルタール人は歌うように喋った説」というのもある。だから歌が言語の基本で、それに情報が乗ってきたという考え方もあるわけです。そう考えると、「ホコホコ」とかが言語の起源かもしれない。

落合 イルカのコミュニケーション音声は、マイクで録ると面白いカーブが出てくるんですよ。イントネーションがヒュウウウッと上がったり下がったりする。

暦本 鳥の鳴き声が、明らかに楽しんでいるように聞こえることがあるでしょ。妙に技巧を凝らした歌い方で、「この子は練習しているんじゃないか?」と思う。あれは絶対、生存に必要なこと以上の何かをやっているに違いない。

落合 人間でも、離島などに行くと「口笛言語」という言語体系があるんです。イルカの音声と口笛言語が似ているという研究は多いのですが、最近でも去年ぐらいに出ていました。それを見て「やっぱりそうだよね」と思いましたね。鳥言語も口笛言語も、歌うように音程差を使ってコミュニケーションするんです。

暦本 2030年代の後半ぐらいには、みんな「ヒョイ」とか「ヒュイ」とかいって、それをAIが翻訳しているかもしれない。

落合 ほぼ口笛言語ですね。

暦本 全員が長嶋みたいになっちゃう。

落合 明らかにあり得る。わりと洒落じゃなくて、そんな気がします。

*1
ダイレクト・マニピュレーション 文字でコマンド(命令)を打ち込むのと違い、コンピュータの存在を意識せずに、対象そのものを操作していると感じることができるインターフェースのこと。「直接操作感」と訳されることもある。

*2
長嶋茂雄(1936─) 「ミスタージャイアンツ」「ミスタープロ野球」とも呼ばれた名選手。読売ジャイアンツの中軸として活躍し、のちに二度にわたって監督を務めた(退任後は終身名誉監督に)。打撃指導の際に繰り出される「ダッ パーンッ」「パアッ ブワーッ」といった擬音は「長嶋語」と呼ばれた。

*3
ハッピーハッキングキーボード/ Happy Hacking Keyboard 株式会社PFUが販売するコンピュータ用キーボード。静電容量無接点方式(静電気を利用してキーのオン/オフを検出する仕組み)なので、ふつうのキーボードよりも軽いタッチでタイピングができる。その分、価格は高め。「高級万年筆のようなキーボード」として、作家やプログラマーなどに愛用されている。

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ハプティクス デジタル空間で触覚体験を可能にする技術。手に装着するグローブ型、全身に装着するボディスーツ型のデバイスなどを通じて、デジタル空間での体験と連動した振動や圧力などをユーザーに感知させる。

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チャーシューメーン ちばてつやのゴルフ漫画『あした天気になあれ』(講談社)から生まれた言葉。打ち急ぎを防ぐために「チャー・シュー・メーン!」のリズムでクラブを振る。