一人で行くのを勧めない料理

 お店が受けてくれる限りは、基本、世界のどこでも一人で食べ歩くことができます。ただ、ひとつだけ例外があります。それは、香港や中国本土など、本場で食べる中国料理です。

 僕が香港の友達に、「今度食べに行くから、最近できたおすすめを教えて」と聞くとします。そうすると、まず最初に聞かれるのが、「何人で来るの?」です。どういうお店が良いか、などではなく、まず人数が最重要なのです。

 屋台や麺や粥の専門店など、一人を前提にしている店は別ですが、中国料理のほぼすべての業態は大人数でシェアすることを前提にしています。ベストの人数は、お店にもよりますが、大体6~8人。これぐらい集まらないと、どんなお店も本領発揮できないといっても過言ではないのです。これは、中国料理の醍醐味が、鳥類1羽や仔豚、魚1匹を、丸ごと調理することにあるからです。

 最近は、2人や4人でも注文できるテイスティングメニューを用意している店が増えました。少数の店ではありますが、一人向けのコースすらあります。ただ、それだと提供できる料理の幅が限られ、ただ少量炒めるだけ、のような技術が感じられないものが多くなってしまいます。

 また、日本人向けのガイドブックに必ず載っているくらい有名な香港の某レストランは、少人数の場合、大人数向けのコースの残り物を温め直して提供するということを普通に行っています。

 広東料理なら、飲茶の店に行く、という選択肢があります。また、上海や香港などの都会にある現代的中国料理の店であれば、少人数でも温め直したものなどではなく、ちゃんとコースで楽しませてくれるところもあります。

 ただ、それ以外の圧倒的多数の伝統的中国料理においては、まずは人数を集めないと話にならない。わざわざ行く意味がない、ということになりかねないので、要注意です。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。