ただ、私たちは一度、悲しい経験をしています。じつは、民主党政権のもとでの社会保障・税一体改革では、消費税を5%から10%に引きあげるうち、その8割が社会保障の生みだす借金を減らすために使われたんです。

 みなさんはこの事実を知ってましたか? おそらくほとんどの人が知らなかったんじゃないでしょうか。

 日本は税の話から逃げ、借金にたよっていろんなサービスを提供してきました。これは財政民主主義の本質である、みんなに必要なものを話しあい、そのための負担を議論しあう、という経験を持てずにきたことを意味します。

 税金のことなんて考えなくても、サービスは受けられる。この体験の積みかさねは、税の使いみちをきちんとチェックしない、自分の税が何に使われるか知ろうとしない、非民主的な社会を生みました。MMTに頼った主張は民主主義の自殺行為だと僕はきびしく言いましたが、借金慣れは、現実に民主主義を骨ぬきにしたのです。

 大切なのは、税の使いみちをチェックする力です。いったい何のために、だれのために税を使うのか。これを見きわめる私たちの力こそが問われているのです。

だったら僕らが監視すればいい!

 もうひとつの答えはもっと明快です。そんなに信頼できないのなら、信頼できるようにしてしまえばいいんです。

 オランダの経済政策分析局(Centraal Planbureau : CPB)を紹介しましょう。CPBは1945年に設けられた政府機関です。政府機関とはいっても、政府から介入されずに分析をおこなえるように制度設計されています。

 彼らは、選挙のさい、それぞれの政党や市民団体の要望を受けて、各党の公約を実施したときに予想される経済や財政への影響を分析して発表します。あの政党の政策をおこなえば、財政赤字がこれくらい大きくなる、この政党の政策が選ばれれば、自分たちの税金がこれくらい重くなる、有権者は政策効果を目に見えるかたちで知ることができます。

 CPBのおかげで、有権者は、自分がどの党に投票すべきかがわかります。社会学者リヒテルズ直子さんは、オランダの国政選挙の投票率が8割をこえている背景のひとつとしてこの機関の存在をあげています。

 政党の行動も変わります。自分たちの政策が数字で見えるようになると、各党は非現実的な選挙公約を作れなくなります。また、与党が選挙公約をなかったことにしてしまえば有権者から強い反発を受けますから、彼らは公約を必死に守ろうとします。