リーダーに必要な「傾聴」と「気前の良さ」

「傾聴」が大事だからといって、リーダーが自分の感情を押し殺して、部下の意見にひたすら耳を傾けていては、決まる物も決まらない。やがて規律が乱れていくことにも、つながるだろう。

 そうではなく、部下もリーダーに臆することなく意見をいい、それに対して、リーダーも遠慮のない意見を言う。そんな環境を作りながら、最後はリーダーが責任をとって決断を下す。それこそが、あるべきリーダーの「傾聴」の姿だと、劉邦は教えてくれているようだ。

 そして、もう一つ重要なことがある。兄貴分でありながら、劉邦に仕えてくれた将軍の王陵は、劉邦が天下をとった理由をこう説明した。

「陛下は部下に城を攻めさせて、土地を攻略させると、功績に報いて、その領地を与えてくれます。天下の人々と利益を分かち合われるのであります」

 つまり、劉邦はリーダーとして「気前がよかった」ということだ。

 一方の項羽については「戦に勝っても人に功績を与えず、土地を得ても人に利益を与なかった」とも言っている。おそらく、項羽がケチだったというよりは、自分が優秀すぎるがゆえに、部下の仕事ぶりをなかなか評価できなかったのだろう。

 思えば「会社が話を聞いてくれない」「結果を出しても、待遇に反映されない」という、ビジネスパーソンの不満は、現代でもあちこちから耳にする。そして、そのうち何人かは見切りをつけて、新天地へと旅立っていく。

 部下の意見をよく取り入れながら、結果が出たら、惜しみなくリターンを与える――。

 才がなく周囲に頼るほかなかった劉邦。ダメ人間がゆえに、自然とそんなマネジメントの基本を、日々実践していたのである。

【参考文献】
司馬遷著、小竹文夫・小竹武夫訳『史記 全8巻セット』(ちくま学芸文庫)
班固著、小竹武夫訳『漢書 全8巻セット』(ちくま学芸文庫)
奥崎裕司著『項羽・劉邦時代の戦乱』(中国史叢書)
佐竹靖彦著『劉邦』(中央公論新社)
藤田勝久著『項羽と劉邦の時代 秦漢帝国興亡史』(講談社選書メチエ)

(本原稿は、『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』に関連した書き下ろしです)