『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』という一冊の本が刊行された。手の付けられない乱暴な子に育った著者が、思春期の頃、おじいちゃんに教わった「人生の教訓」について書いたものである。そして実は、タイトルにある「おじいちゃん」とは、かの有名なガンジーのことなのだ。12歳だった孫の人生を変えたガンジーの教えとは? 世界中の人々が「自分」と向き合うきっかけとなった本書の邦訳を記念して、その一部を特別に公開する。今回は、ガンジーが孫に語った「怒りをどう捉えるか」という話について紹介。
「おまえが怒ることのできる子で嬉しく思っているよ」
「一つお話をしてあげよう」とバプジ(おじいちゃん)は言った。
「昔々、おまえと同じ年頃の男の子がいた。その子はいつも怒っていた。自分の思い通りにならないことばかりだったからだ。その子は、他人の考え方が理解できなかった。だから、誰かが気に入らないことを言うと、すぐに怒りを爆発させていた」
この「男の子」は、きっと自分のことだ──私はそう思い、黙って、バプジの話をじっと聞いていた。
「ある日、男の子は激しい喧嘩をして、思わず相手を殺してしまった。一瞬でも怒りに身を任せてしまったために、他人の命を奪い、自分の人生も台無しにしてしまったんだよ」
どうすればいい子になれるのかはまったくわからなかったが、それでも怒りのせいで誰かを殺してしまうなんて、私は考えたくもなかった。
「バプジ、約束します。もっといい子になります」
そう言うと、バプジはうなずいた。
「おまえはたしかに怒りをたくさん持っているようだね。お父さんとお母さんから喧嘩の話は聞いているよ」
「ごめんなさい」と私は言った。また泣き出してしまいそうだった。
そのときバプジは、私が予想もしていなかったことを言った。私のほうを見ると、「おまえが怒ることのできる子で嬉しく思っているよ」と言ったのだ。
「怒るのはいいことだ。実はね、私もしょっちゅう怒っているんだ」
怒りは賢く使いなさい
私は自分の耳が信じられなかった。「バプジが怒ったところなんて、一度も見たことがない」と、私は言った。
「それはね、自分の怒りを正しく使う方法を学んだからだ」と、バプジは説明した。
「怒りは、車のガソリンのようなものだ。怒りがあるおかげで、人は前に進むことができるし、もっといい場所に行くこともできる。怒りがなければ、困難にぶつかったときに、なにくそという気持ちで立ち向かうこともできないだろう? 人は怒りをエネルギーにして、正しいことと、間違ったことを区別することができるんだよ」
(本記事は、『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』(アルン・ガンジー著、桜田直美訳)の一部を抜粋・編集したものです)