患者の認知機能やコミュニケーションは
死が近づくと回復する

 一方、この要素のおおよその比較対照として、わたしのチームの研究が広く知られる前に得たデータとこの調査の結果を比べてみる、という手もある。

 まだ粗削りな調査ではあったが、患者の死と時間的に近いエピソードの割合が、調査協力を募った時期によって有意差がないことがわかれば大きな助けになる。ちなみに終末期ではない、すなわち単なる逆説的明晰(編集部注/死と無関係と思われる明晰)であった事例の割合は、パイロット調査のために(つまり、メディアがわたしのチームの研究を報じる前に)募集した回答者のサンプルの約5%であり、もっと最近の事例でも5%だった。

 さらに言うと、ナーム(編集部注/ミヒャエル・ナーム、生物学者)とグレイソン(編集部注/ブルース・グレイソン、精神医学研究者)のレビュー論文にある歴史的事例のデータも似たような割合だった。彼らの49例(多くは認知症患者)のサンプルのうち、終末期明晰のエピソードの43%が患者の死の当日に起きていた。また、41%が死の2日から7日前に、10%が8日から30日前に生じていた。

 そのほか、イム(編集部注/イム・チヨン、バティアーニ博士の研究メンバー)らによる韓国の最近の調査では、患者の50%がエピソードのあと1週間以内に、残る50%が9日以内に亡くなっていた。ただしこの調査は、神経変性疾患の患者をほとんど含んでおらず、彼らの発見が、ここで報告されているデータと単純に比較しうるものなのかどうかははっきりしない。よって、一定の回答の偏りが生じるのは避けられないが、その影響が――仮に影響があったとしての話だが――調査の結果を大きく歪めることはなかったと考えてよさそうだ。

 このように、さらなるデータや事例を要する不確実さはあるものの、既存のデータは、患者の認知機能やコミュニケーション能力が、その症状からはおよそ考えられないような死と関連した回復を遂げていたことを裏づけているのだ。