脂肪性肝疾患は肝臓に余計な脂肪がたまった状態で、多くは大量飲酒によるものだ。
しかし近年は、不健康な生活習慣に端を発する非アルコール性の脂肪性肝疾患が増えている。
これらの肝疾患は非(Non)アルコール性と肥満(Fatty)の頭文字を取り「NAFLD」と呼ばれていたが、偏見を助長するため、昨年から代謝異常を伴う一部については「MASLD」(MはメタボのM)へ名称が変更された。
福島県立医科大学の研究グループは、2013年5月~18年12月に県内で2回以上の健診を受けた人を対象に、生活習慣とNAFLD(当時は旧名称)との関連を調査。特に睡眠時間に注目した。
対象は1回目の健診時に33~86歳で、NAFLDを発症しておらず、B型/C型肝炎ウイルスの検査が陰性の1862人。男性は533人(年齢中央値65歳)、女性は1329人(同64歳)だった。
追跡期間中、およそ4人に1人にあたる483人(男性159人、女性324人)がNAFLDを発症。未発症者と生活習慣を比較すると、男女ともに現役喫煙者の割合が有意に高かった。
男性の発症者は、睡眠導入剤の使用歴、間食習慣あり、朝食抜きの人が有意に多く、逆に運動習慣のある人は有意に少なかった。
睡眠については、男性では有意差はつかなかったが、睡眠時間が6時間未満の女性では、NAFLDの発症率が有意に高かった。
さらに、運動や食事など睡眠以外の生活習慣の影響を調整して解析した結果、睡眠時間6時間未満の女性は、同7~8時間未満より発症リスクが1.55倍高いことも判明している。
つまり女性では、十分な睡眠時間の確保がNAFLDの発症予防につながるというわけだ。
大量飲酒のイメージが強いため、「脂肪肝」と睡眠を結びつける人は少ないだろうが、動物実験ではたった1回の不眠で、食事や運動とは無関係に肝臓の脂肪代謝酵素に異変が生じ、肝臓に脂肪が蓄積されることが判明している。
酷暑の夏は生活習慣が乱れ、肝臓もバテ気味。意識的に睡眠時間を確保し「沈黙の臓器」を守ろう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)