最適な介護施設選び&老人ホームランキング #3Photo:PIXTA

訪問介護を担うホームヘルパー制度が危機に直面している。安定せず、少ない給与(報酬)から、なり手がいないため高齢化も進む。背景にあるのは、「労基法無視」の構造問題だ。特集『最適な介護施設選び&老人ホームランキング』(全21回)の#3では、ホームヘルパーたちの叫びを取材した。(ライター 船木春仁)

「週刊ダイヤモンド」2022年10月29日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

ホームヘルパーの移動時間や
キャンセルになった仕事への手当は出ない

 11月1日、東京地方裁判所で、ある裁判の判決が言い渡される。

「ホームヘルパー国家賠償請求訴訟」。登録型の訪問介護員(ホームヘルパー)である3人の女性が、訪問介護の現場では労働基準法違反の状態が恒常化しているのに、厚生労働省が是正のための権限を行使しないのは違法だとして、国に300万円の損害賠償を求めた裁判だ。

 2019年11月の提訴以来、原告側の意見陳述を認めない裁判官の忌避申し立てなどを経て8回の裁判が開かれたが、結局、証人尋問や証拠調べなど深く立ち入った審理は行われなかった。

 原告の一人である佐藤昌子さんは、悔しさを隠さなかった。

「自分が介護を受ける立場になってもなんとかなるだろうと考えている人は多いと思うが、介護の現場にいて一番に感じるのは、このままでは絶対になんとかならないということ。介護は崩壊します。その点は、裁判長にも自らのこととして考えてみてほしかった」

 ただ、国賠請求訴訟で明らかにされたホームヘルパーの仕事の実態は驚きのものだった。例えば、原告の一人である藤原路加さんの「ある一日」を再現してみると、次のようになる。

 午前8時半に事務所で訪問スケジュールを確認するなどしてスタートした一日は、午後7時に帰宅するまでに6人の利用者宅を訪ね、着替えを手伝ったり、みそ汁を作って弁当を食べてもらったり、入浴介助などを行ったりした。そのうち1人は、緊急入院のためにキャンセルになった。

 移動の合間に肉まんを頬張って食事代わりとし、キャンセルで待機となった時間は公園で事務連絡に充てた。移動時間やキャンセルになった仕事への手当はない。

 この日の給与の合計は7075円。拘束時間は610分で、そのうちサービス提供時間は285分。つまり全労働時間の47%であり、過半の労働時間は賃金不払いとなっていた。

 しかも1人当たりの介護サービスの提供時間は長くても1時間で、最短の人は30分だった。この間に複数の介護メニューをこなす。例えば10分で風呂を沸かし、20分で洗髪と洗身を済ませ、残りの30分で配食や食事介助、後片付けを済ませる。

 次ページでは、訪問介護の担う「ホームヘルパー制度」危機の裏にある、「労基法無視」の残酷なる構造問題を解き明かしていく。