現在も週に1~2回は練習して、都度何分で縫えたか記録を取って、その日の調子を測っています。これがわたしが生涯でいちばん長く続けている訓練です。わずか20分程度ですが、これ以上のストレスを感じる手術シーンはあまりありません。本番より難しい練習を普段からしていると、手術現場でもあまりストレスを感じなくなります。

 難易度がどんどん上がっていけば、相応の刺激が脳にいっていると考えられます。血管も同じ場所に置かないように45度ずつずらしています。最適な手の動かし方を見つけるまで苦労しますが、慣れるとすぐに角度に応じてやり方を変えられるようになります。最近はラクにできるようになってきたので、10センチメートル先からもっと遠くにしなければいけないと考えています。

 このように、脳トレかつ仕事のパフォーマンスをダイレクトに高めるような活動が見つかるといちばんいいです。

図表1:脳番地を満遍なく使う同書より転載
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 手術については過去15年の失敗の記録を1行でまとめてノートに記しています。その記録を斜め読みしてから次の手術に向かう。テレビ番組の内容を記憶して家族に話すことが認知症予防になると述べましたが、これも記憶系を刺激することになります。記憶の貯蔵庫に、関連する手がかり帳のようなものをつくるのも有効です。

 また、こうした複雑なこと以外に「大きな声で挨拶する」「感謝をはっきり言う」など、年を重ねるごとに意識して喜怒哀楽を出すようにしています。それだけでも感情系を刺激するのです。

 使っていない脳の経路は萎縮が始まります。

スキマ時間に脳を鍛える
簡単スクワットとは?

 運動は小脳を巻き込んで、脳の多数のエリアを活性化させます。

 ハーバード大学の精神科医ジョン・J・レイティ氏は、20分間運動させてから試験を受けさせたグループと、まったく何も運動させなかったグループの2群に分けて実験をおこないました。5~10分の準備体操、ジャンプやジグザグ走などのランニングアクティビティ、頭を使うグループゲーム、体操でのクールダウン。

 これらをおこなったのちに試験を受けると、何もしなかった学生よりも運動した学生のほうが脳血流が上がっていました。