「一人息子のD男さんは、東京の家を引き払い、実家から会社に通うようにしたのです。今までは通勤時間は片道1時間程度だったのが、2時間半にもなってしまいました。特急列車に乗ることもできましたが会社は補助してくれませんので、特急料金は自腹。仕事帰りには職場の同僚とよく飲みに行っていたのを断るようになって、週末に友達と遊びに行くこともできなくなってしまったのです」

 午前9時の始業前には職場に着くように、朝5時に起床して6時に自宅を出る。仕事は内勤だが午後5時の終業時間ちょうどには退社できない。どうしても30分〜1時間ぐらい仕事を終わらせるのに時間かかってしまう。2時間半かけて自宅に着くのは20時半頃、といった毎日が始まった。夕食は自宅に帰ってから食べるのでは、空腹に耐えられないので乗り換えのときに駅構内の立ち食いそば屋などで済ませることが増えた。

「自宅に帰ってからは入浴を済ませて、夜はお父さんのトイレ介助などをしたそうです。そして、朝起きるとおむつ交換をしてから出かける。会社と自宅の往復だけの生活で、土日に自宅でリラックスしたいと思っていても、お母さんのグチばかり聞かされるので、ストレスが溜まってきてしまったのです」

 実家で介護をする生活が2年ほど続き「介護離職」が脳裏をよぎった頃、父が急逝した。葬儀が終わった後、D男さんはまた都内に引っ越して一人暮らしを始めたが、それから母の様子がおかしくなってきたという。