「広い一軒家に一人暮らしをするようになって、お父さんを失った悲しみから抜けきれなかったのか、生活が荒れてきてしまったそうです。部屋のなかはきちんと整理整頓していたのがゴミ屋敷のように物でちらかってしまい、D男さんが電話をかけるたびに『こっちに帰ってきてくれない?』と言い出したのです」

「お母さんがそう願っているのは感じていたそうですが、即断ったら、次に帰省したときに『お父さんの介護では戻ってきてくれたのに、どうして私の介護では戻ってきてくれないの?』と思い詰めた表情で詰め寄られた。普通、子どもの幸せを考えるのであれば早く結婚して家庭を築いてほしいと思うでしょうが、D男さんのお母さんも一人で寂しいから、自分がしんどいから子どもに頼る自己中心的な考えの持ち主だったのです」

息子をうつに追い込んだ
母親とご近所さんの会話

 そして事件は起こった。月に一度のペースで帰省して、母と一緒に買い物に出かけて重い荷物を持って自宅に戻ろうとしたときに、近所の人に「親孝行の息子さんですね」と、声をかけられた。「本当に助かっているんですよ」と母はねぎらう言葉をかけるのかと思ったら「私を置いて東京に帰ってしまったような冷たい息子なんですよ!」と、毒を吐き始めた。

 その言葉を聞いたD男さんは、「冷たい息子とは何だ」と言い返す気力もなくなるほど心が折れてしまい、母のサポートをするのをやめてしまったという。

「これまでの数年間が否定されたようで、夜も眠れなくなってしまったのです。土日の朝は起きられなくなってしまい、鉛のように体が動かない。うつの症状が出始めてしまい、実家に足が遠のいてしまったのです」