母は「私の介護では戻ってきてくれない」というが、要介護認定を受けると最も軽い「要支援1」。階段の登り下りや、洗濯物を干すといった作業は時間がかかるとはいえ、身の回りのことは自分でできる。毎日の買い物もスーパーからタクシーを利用すればわざわざD男さんが同行しなくても用は足りたはず。

 D男さんの母世代は、結婚するまで実家で過ごし、結婚後も夫と子どもと生活をしていたので、一人で暮らすのが初めての経験。きっと寂しさと不安のなかで生きているのではないかと太田さんは分析する。

「この先、要介護者である母親が亡くなったら「ほっとした」といった感情が出てくるかもしれませんが、それはある意味当然のことです。介護したからこそ感じる気持ちなので、『自分はなんて冷たい息子』などと、自分をせめてはいけません。また、実家から通勤するのは無理がありました。もっといろんな介護サービスを利用すれば、実家に戻って来なくても介護はできたと思いますし、介護サービスはプロにまかせたほうがいい介護につながります。お母さんがひとりになってさみしいのはわかりますが、だからといって再び同居に踏み切るのは介護離職のリスクが高まるのでお勧めできません」

 子が同居しないメリットもある。親だけの方がサービスを受けやすい。介護保険の訪問介護(ホームヘルプ)の家事援助的なサービスを使うこともできる。また、特別養護老人ホームに申し込んだ際の優先順位も上がる。市区町村の自治体が独自に実施している一人暮らしの高齢者向けサービスも利用できる。

 しかも母親と同居してしまうと子どもはますます縁遠くなる。結婚をしたいと願っているのであればD男さんの決断は正しいという。親子共倒れを防ぐためにも、子どもは仕事を手放すのはもちろん、親と同居をしてひとりで介護を背負おうとしてはいけないのだ。

太田差惠子さん
介護・暮らしジャーナリスト。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP (日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』 (翔泳社)、『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門 第2版』(共著,KADOKAWA)など多数。 

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