イスラエル高官がこっそり明かした、「ハマスを育成した」大物政治家の名【佐藤優】2024年7月25日、大統領執務室でイスラエルのネタニヤフ首相と会談するバイデン米大統領 AFP=JIJI

緊迫感が増すイスラエル。ハマスを利用できると考え、「ハマスを育成した」大物政治家とは?日本の報道では伝えない現地の声を、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が読み解く。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

ユダヤ人の生き残りが懸かっている人質問題

 前回の本欄でも述べた通り、7月初旬にイスラエルのテルアビブへ行ってきました。昨年10月7日にハマスによるテロが起きて以来、イスラエルに住む友人たちと緊密に連絡を取り合ってきましたが、6月くらいから緊迫感がただごとではなくなってきたので、直接行って話そうと決めたのです。

 結果として、現地で暮らす人たちの本音を聞けたことは、大きな収穫でした。日本の報道は伝えない肉声を、今回は紹介しましょう。

 テルアビブへ向かう飛行機は、成田国際空港から週2便出ています。航空券は簡単に取れましたが、海外旅行保険に入ろうとしたら「イスラエルは勘弁してください。保険を掛けられるような状態ではありません」と断られました。

 飛行機はガラガラかと思えば、ほぼ満席なので驚きました。ほとんどが帰国するイスラエル人観光客で、3分の1くらいがロシア系の人たちです。

「欧州や米国へ行くと、待遇が悪くて不愉快極まりない。だけど日本人は当事者性のない中東問題に関心がないから、旅行していて嫌な思いをしなくて済む。いま、日本観光の人気はうなぎ上りだよ」と言われて、なかなか複雑な気持ちになりました。

 現地では、パレスチナ自治区ガザ地区から人質を救い出すボランティアをしている男性の話を聞きました。彼は京都大学に留学した後、テルアビブにある日本の商社で幹部職員になり、いまは環境系の企業を立ち上げて軌道に乗っているそうです。

「200人いた人質のうち、80人に関しては死亡が確認されたり引き渡しが済んでいたりするけれど、あと120人がハマスの元にいると考えられる。そのうち50人ほどは生きている形跡があるから、イスラエルへ戻さないといけない。

 これは人数の問題じゃない。同胞を助けなければ、ユダヤ人国家がここに存在する意味がなくなってしまう。この人質問題には、ユダヤ人が生き残っていけるのか否かが懸かっている。イスラエルの建国後、最大の存亡の機なんだ」

 彼の話は、私が話をしたイスラエル人全員に共有されている認識でした。