さらに、エン・ジャパンでは適性テストの結果を社員間で共有している。互いの取扱説明書のように使うことで、より効果的なマネジメントやチームビルディングにつなげているのだ。

「一人ひとりが何を楽しいと思うか、何をストレスに感じるかが分かれば、どう働きかければ伸びるのかが見えてきます。適性テストの結果を参考にしたほうが、より効果的に育成できるようになるんです」(高橋さん)

DXマネージャーには
「遊びの設計力」が求められる

 ちなみに、DX部門のマネージャーには、どんな人が向いているのだろうか。高橋さんは、DX部門のマネージャーに求められるスキルとして、「遊びをうまく設計できること」を挙げる。DXはイノベーションの幅が大きいほど前例のない取り組みになることが多い。高橋さんは、「失敗を許容できる範囲を設定し、その中で試行錯誤を認める必要がある」と強調する。

「マネージャーの役割は、過去に自分が経験してきたことを是として教えるOJTスタイルから、示唆を与えるようなコーチングスタイルにシフトしています。私は上司から『失敗するかもしれないから楽しんだ』と教わりました。子どもはジャングルジムで遊ぶと落ちないかどうかドキドキして、それが面白い。未知に挑戦するメンバーを見守ることで、予想以上の成長を見せてくれる。それが今は嬉しいです」(高橋さん)

コミュニケーション不足が
抵抗勢力を生む

 DXの過程でよく俎上(そじょう)に載るのが、これまでのやり方を変えることに反対する「抵抗勢力」の存在だ。彼らとどう戦うかという議論がしばしばなされるが、高橋さんは、「お互い分かり合う努力が足りていないのでは」と指摘する。真の原因はコミュニケーション不足であるにも関わらず、抵抗勢力という言葉が都合のいい言い訳になっているケースはままある――と、筆者も思う。

「情シス部門は事業部門に伝わる言葉で語れるように、事業部門は情シス部門の言葉が分かる、もしくは理解できる人材を配置するといったように、お互いに歩み寄る必要があるのです。異文化交流に近いですね」(高橋さん)

 例えば、以前は情シス部門と事業部門との間で、こんなやりとりがあった。

情シス部門:「こちらで、ユーザー受け入れテストをお願いできますか?」
事業部門:「分かりました!対応します」
高橋さん:「念のため確認させてください。事業部側は、ユーザー受け入れテストって具体的に何をするか分かっていますか?」
事業部門:「いや……、分かっていません」
高橋さん:「情シス側にも確認させてください。事業部側は分かっていないことに、『イエス』と言っていたようです。そのことに気づかれていましたか?」
情シス部門:「気づいていませんでした」

 情シス部門と事業部門では、当然IT用語に対する解像度が異なる。情シス部門は一つ一つ着実にステップを踏もうとするが、事業部門は目的(ゴール)志向が強い。その結果、フォーカスがずれて、会話が成立しているようで、していない状態になってしまうのだ。

 抵抗勢力と呼ばれる人たちも、全員が全員、変化を否定しているわけではない。その変化が自分たちにどう影響するのかイメージできずに戸惑っている場合もある。心当たりがある方は、まずは、相手にとって分かりやすい言葉で伝えることから始めてみよう。