エン・ジャパン DX推進グループ グループマネージャー 高橋淳也さん Photo by Mayumi Sakai.エン・ジャパン DX推進グループ グループマネージャー 高橋淳也さん Photo by Mayumi Sakai.

DXは今や重要な経営課題の一つ。しかし、専門知識を持ったIT人材がいない、既存の組織構造との軋轢といった理由で、DXが進まないと悩む企業は多い。そんな中、非IT企業でありながら、社内でDX人材を発掘・育成し、DXが進みやすい組織づくりに成功している企業がある。人材サービス大手のエン・ジャパンだ。同社のDXをリードする高橋淳也さんに、そのノウハウを聞いた。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

会社が急成長する影で
情シス部門が限界を迎えてしまった

 エン・ジャパンが本格的にDX人材育成に乗り出したのは、急成長を支えてきた情報システム部門(以下、情シス部門)が、限界を迎えたのがきっかけだった。

 当時の同社は、リーマンショック後の低迷から抜け出そうと、「5年で売り上げ4倍」という高い目標を掲げていた。日々変化する市場に即応するため、営業は全員毎日欠かさず日報を提出。それを社長自ら朝一番にチェックするなど、顧客ニーズや競合の動きを先取りする体制を構築していた。

 2014年には、転職サイト「エン転職」のリニューアルに成功し、再び成長軌道に乗った同社。しかし、速すぎる事業展開にシステムを一手に引き受けてきた情シス部門の窮迫度はさらに上がっていった。事業部門が「1カ月後に業務フローを変えたいので、システム改修をお願いできますか?」と依頼すると、「今からだと3カ月後になりそうです」。顧客ニーズや競合対策でとにかく急ぎたい事業部門と、長期視点でシステムの安定運用を重視する情シス部門との間に、大きなギャップが生じていた。

 高橋さんは、当時の様子をサッカーのフォワード(事業部門)とディフェンダー(情シス)に例え、「間延びしていて、ロングキックでパス交換をしているような状態でした。中央でボールをつなぎ、落ち着かせるミッドフィルダーがいなかった」と振り返る。「当時は情シスがほぼ全てのシステムを作っていて、それ以外は全部Excelという世界でした。情シスを動かさないとシステムが動かせない。まずはこの構造を変えることが不可欠でした」(高橋さん)

 情シス部門の限界を事業成長の限界にはしたくない――高橋さんや事業部門だけではなく、当の情シス部門も同じ思いだったという。