『J-POPの捕食者』の冒頭で、ナレーター役となったジャーナリストのモビーン・アザーが東京の街中で街頭インタビューを試みる。喜多川について聞くと、ある男性は「神様のような人です」と答えた。日本のアイドル文化を作り上げた立役者として喜多川は高く評価され、性的搾取の疑惑があっても高評価が変わらないことを知って、アザーは衝撃を受ける。

 アザーは数人の被害者に会う。眼鏡とマスクで顔を覆って出演した1人は、喜多川による性加害の状況を語るうちに涙を流した。一方、性的マッサージを受けたという別の1人は喜多川を「今でも大好き」「本当に素晴らしい人」と答えた。スターになるためだったら、性的なアプローチを受けてもかまわないと答える人もいた。アザーは「信じられない」という表情で相手を見つめた。

スターになるための性的搾取を
受け入れる自由など存在してはいけない

 アザーは事務所に何度も面会を求めるが、機会は与えられなかった。「大きな組織として説明責任があるのではないか」。アザーはカメラに向かって怒りをあらわにした。

 番組が日本で放送されると、大きな波紋が広がった。4月、元ジャニーズ・ジュニアのカウアン・オカモトが実名で被害を訴える会見を開き、これを皮切りに被害者が続々と声を上げだした。ジャニーズ事務所は独立調査委員会を設置して事態を調査させ、2023年9月記者会見で性加害の事実を初めて認めた。翌月、事務所は「SMILE-UP.」と社名変更し、被害者のケア・補償を行うことになった。

 日本での反響を受けて、同年5月、英国の非営利組織「大和日英基金」が開催したオンライン・セミナーにインマンとアザーが呼ばれた。参加者の1人がアザーにこう聞いた。「スターになるためには性的搾取を受けてもかまわないという人がいる社会を変えることは可能か」。アザーは「こういう行為を許してはいけないという声が社会の大多数になれば、変わる」と答えている。

 BBCの番組が日本の芸能界のタブーを破った。変化が確かに起きたのである。