新卒採用で入社し、定年まで一つの企業で仕事をするという人生のモデルは、過去のものになりつつあります。複数のキャリアを経験する社会人も珍しくなくなりました。こうした時代において個人の「学び」は重要な役割を果たします。しかし、「学び」の大切さはわかっていても、「何をどう学べばいいかわからない」「始めてみたが続かない」という人も少なくありません。そんな悩める人の数々の疑問に答えてくれるのが、ベネッセコーポレーションで社会人向け教育や人材開発事業を統括し、世界6900万人以上が学ぶオンライン動画学習プラットフォームUdemyの日本事業責任者である飯田智紀氏です。本連載では、「社会人の学び事情」に詳しい飯田氏の新刊、『何から始めればいいかがわかる 最高の学び方』より一部を抜粋してお届けします(全3回中の第2回)。
インサイトリサーチで判明!
学びに対するネガティブな価値観や感情の正体
ベネッセでは、毎年、社会人を対象に「社会人の学びに関する意識調査」をおこなっています。2023年も、全国の18歳から64歳までの男性・女性の社会人、約4万人に対して調査を実施しました。
調査で行った「学生時代を除いて直近1年間に何か学習したことがありますか」という質問に対し、全体の34.5%の人が「学習し続けている」と答えています(学んでいます層)。
一方で、「学んでいない」という点に着目すると、39.9%の人が「学習意欲なし」と答え(何で学ぶの?層)、「学習をやめた/やめる」(学ぶの疲れた層)の12.1%、「これから学びたい」(学ぶつもり層)の13.5%と合わせると、社会人の約3分の2が、「現在、学んでいない」という結果となります。本当にそうなのでしょうか?
定量調査では拾い切れない別の本音を探るため、私たちは2023年秋に、もう一つの調査「生活者理解のためのインサイトリサーチ」(以下、インサイトリサーチ)を実施しました。
インサイトとは、本人も気づいていない無自覚な欲求や心の奥深くに隠された心理のこと。調査では人々の本音を知るために、調査手法として、「学び」に関するポジティブな体験価値をヒアリングし、その体験価値から相対的に見た、隠れた不満や未充足欲求をあぶり出そうと試みました(認知度などを考慮して、調査では「リスキリング」という言葉を使っています)。
インサイトリサーチでは、調査に回答した社会人1000人の中から、より代表的人な20人を選び本音を探っていきました。
インサイト調査に協力してくれた40代の研究職のDさんのコメントを紹介します。
私は、大学院を修了して研究職に就きました。
「専門性を持ち、自分のやりたかったことを仕事にしている」と周囲からは思われていましたが、私自身は自分をあまり知らずに大人になってしまいました。
目の前の仕事を一生懸命こなすことが日常で、自分にかまってあげられていませんでした。「本当は自分が何をやりたいのか」など、考えたこともありませんでした。
しかし、管理職の立場となり初めて心理学の研修を受けたことで、40代後半にして初めて自分のことを理解できるようになったのです。大きな衝撃を受けました。
これまで自分のことはほったらかしだったことに気づきましたが、学びを経て、自分のことが好きになりました。
Dさんのように、「学び」で想定外の「ギフト」を得る人はたくさんいます。
「みんなの助けになれることがうれしい」
「自分が何かを生み出す側になれるとは想像もしていなかった」
「あきらめかけていた夢と私生活の充実を同時にかなえることができた」
など、さまざまな声を耳にします。
インサイトリサーチで、リスキリングに対する不満や不安など、ネガティブな価値観や感情の正体を探っていくと、ある課題に気づきました。