とはいえ、彼女の3万5000元という賃金は減給されたとはいえ、中国の一般家庭からすれば高所得であることは間違いない。家族3~4人の賃金を合計してもまだまだ追いつかない家庭はザラにある。鄭さんも多少損はするだろうが思い切って豪邸を手放し、夫の給料と合わせれば、それなりの生活を十分送れたはずだった。

 ところが、彼女が購入したという豪邸には5年間の転売禁止条項があったらしい。加えて、不動産不景気によって彼女たちが購入した物件はここ半年で大幅に値下がりしており、まさに彼女たちが支払った頭金相当額が「消えた」状態となっていたという。

 すでに年始めの減給でローン返済に不安を感じていた鄭さんは、2回目の通告で完全に予定が崩れてしまい、ショックで死を選んだといわれている。

今の中国は
「歴史のゴミ時間の真っただ中にある」

 彼女の死はさまざまな反応をもたらした。

 まず、金融業界に与えた衝撃は特に大きかった。いつもは市場動向などを伝えている業界関係メディアがこぞってこの話を取り上げ、論評し、分析し、業界関係者のSNSへの書き込みにも「明日は我が身」という言葉が並んだ。

 一方で、金融業界以外の人たちの間には「なぜこんな不景気、それも不動産業界自体が崩壊に瀕している最中に、なぜ彼女たち夫婦はそんな豪邸を買ったのか?」という疑問も広がっている。

 そこから、社会のエリート街道をひた走り、時代の波に乗ってきた鄭さんたちのような人たちには、「不況や社会の動揺が自分たちには及ばない」という信念のようなものがあるのではないかとの分析もある。