特に1994年生まれの鄭さんは、中国の経済成長の真っ最中に育った世代だ。子どもの頃から右肩上がりの社会しか知らずに育ち、名門大学を出て、国有のトップ投資銀行に入社し、若くして一般庶民の想像の域を大きく超える賃金を手にしたのである。彼女たちは自分たちを「雲上の人」だと考えていたのではないか――そこには、「中国の発展は必然」「今や中国は世界のエリート」だと信じる世代の姿が透けて見える。

 その一方で、一般庶民の常識を超えた超高額な賃金に対する「討伐」も高まっている。忘れてはならない。中国は社会主義国なのである。「ひけらかし事件」をきっかけに、政府は習近平が唱える「共同富裕」……つまり、格差の是正を決意したともいわれている。その手始めが自称「雲上人」が集まる金融業界への鉄拳であり、さらに政府は業界から回収した資金を不景気の真っただ中にある業界へと投じるつもりなのだともいわれている。

 金融業界はすでに萎縮してしまっており、人々の士気にも火がつかない状況だという。そして、その無力感から、今は「歴史のゴミ時間の真っただ中にある」という流行語が広がり始めた。「歴史のゴミ時間」とは、そこにすっぽり入ってしまえば、個人がどんなにあがいてもどうすることができない――という意味である。