日本に必要なのは、インフレでなく強い需要

 前回も述べたが、日本経済にとって本当に必要なのはインフレではなく、強い需要である。需要が強くなれば、生産が増え、企業は雇用を増やし、雇用者所得が上がる。その結果、インフレ圧力が強まることになる。つまり、インフレは結果であって目的ではあり得ない。インフレが先に来ると、人びとは消費を減らし、景気はもっと悪くなる。

 そもそも、円安がインフレ圧力を強める効果にも疑問が残る。実質実効レートベースでみると、1970年以降で最も円安になったのは2007年6月だ(米ドル/円相場は124円台まで上昇)。しかし、このときの日本の消費者物価指数は前年比マイナス0.2%だった。

 内閣府の経済モデルによると、米ドル/円相場が10%円安方向に振れて、その水準を1年間維持できるとインフレ率は0.12%上昇する。これに従って単純計算すれば、インフレ率を直近2月の前年比マイナス0.7%からゼロに戻すには、円相場が対ドルで60%も下落して、その水準を1年間維持する必要がある。

仮に、スタート地点を昨年11月半ばの79円近辺としても、そこから60%の円安・ドル高水準は126円程度だ。その水準を1年間維持するなど至難の業だ。それほど、為替相場からインフレ率への波及効果は小さいのである。

 円安からインフレにつながる経路として最も分かりやすいのは、ガソリンなどのエネルギーや、輸入食品の価格上昇であり、庶民の生活を直撃する。こうした形のインフレを、本当にみな望んでいるのだろうか?


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インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?
デフレ脱却をめぐる6つの疑問

インフレは円安圧力を強める効果があるのか?

日本では「デフレは悪で、インフレが望ましい」という考え方が広がり、定着しつつあります。特に安倍晋三首相が選挙前から「量的緩和の拡大」「デフレからインフレへ」などと盛んに発言し、実際にマーケットが円安・株高に動いたため、この風潮はますます強まっています。経済が停滞しているのも、若者の就職難もデフレのせいで、インフレになれば経済が活性化し、苦しい生活が楽になるがごとく喧伝されますが、本当にそうでしょうか?インフレが起こった場合、物価の上昇に追いつくほど給料が上がらない場合、銀行預金程度の資産しか持たない一般の人たちの購買力は低下して、今より貧しくなるのです。それでも皆さんはインフレを是とするのでしょうか。本書は、インフレの基本的構造や金融政策の仕組み、それらの個人や企業への影響、為替との関係などを分かりやすく解説した入門書です。

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