デザインは、機会発見・価値創造のアプローチ

「デザイン白書2024」から読み解く、デザインのビジネスへの活かし方HIRONORI IWASAKI
武蔵野美術大学 造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科 教授、ビジネスデザイナー。リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。 ビジネス×デザインのハイブリッドバックグラウンド。主な受賞にRed Dot Award: Communication Design、D&AD Awards Design Transformation Categoryなど。著書に『デザインとビジネス 創造性を仕事に活かすためのブックガイド 』(日経BP 日本経済新聞出版)、『機会発見―生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)など。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了、京都大学経営管理大学院博士後期課程修了、博士(経営科学)。

 イノベーションのためにクリエイティビティが重要であることは分かるけれど、自分には(自社には)クリエイティビティがない──。そう嘆く経営者や企業は少なくありません。特に日本企業には「クリエイティビティコンプレックス」とでもいうような苦手意識がまん延しており、それが日本のデザイン活用を阻んでいることをしばしば感じます。

 その理由の一つが、日本語の<デザイン>という言葉に「造形」や「意匠」という意味が付きまとっていることではないでしょうか。一方、英語の<Design>には、そもそも設計や構想といった「広義のデザイン」まで含まれています。デザインという言葉が指し示す概念領域のギャップが、そのまま日本と世界のデザイン活用のギャップにつながっているように思います。「デザイン白書」の冒頭に収録されている「WDO世界デザイン会議東京2023」のレポート(白書13ページ)は、このギャップを考える上でも非常に参考になります。

「デザイン思考」が「問題解決のための新しい思考法」としてブームになったことにも功罪両面がありました。一般のビジネスパーソンがデザインの方法論に触れるきっかけになった点は良かったのですが、プロセスばかりがクローズアップされ、マインドセットの重要性が置き去りにされてしまった感は否めません。

 私自身は、デザインは問題解決よりもむしろ「新しい機会の発見と実装」に効くアプローチだと考えています。一般に「デザイン思考」として理解されているプロセスだけでなく、マインドセットも一緒に組織に浸透させることができれば、機会発見と市場創出が再現可能な方法論として形式知化できるようになるでしょう。「デザイン白書」には、そんな事例が数多く紹介されています。

 ところで、クリエイティビティで事業を成長させた日本企業の代表といえばユニクロです。同社の成長の中心には、創業者・柳井正氏と、クリエイティブ・ディレクター佐藤可士和氏の密な関係性があります。今、多くの企業が目指すべきは、この構図を経営層とインハウスデザイン組織で再現することです。そのためには、創造的なアプローチを「クリエイティブな一部の人の暗黙知」にとどめず、きちんと明文化して社内で共有したり、量的インパクトではなく質的インパクトで取り組みを評価したりといった、デザイン活用と親和性の高いワークスタイルや組織文化をつくることが重要です。

 経営者がクリエイティビティに対する苦手意識を払拭することは、そのための第一歩です。デザインリテラシーの高い経営リーダーが増えていけば、日本はもっとイノベーティブで面白い場所になる。そう期待しています。