イノベーションを先導するインハウスデザイン組織

 デザインの役割が拡張すれば、企業内のデザイン組織の在り方も変化します。

 デザインに対する意識が希薄だった企業にボトムアップ的にデザイン組織が立ち上がった例として注目すべきは、NTTコミュニケーションズのKOEL Design Studioです(白書168ページ)。

 2020年に設立された若い組織ですが、事業部に併走しながらプロダクトやサービスの開発に携わるのはもちろん、NTTグループ全体のデザイン人材の育成や、未来探索型のリサーチなど多様な活動に取り組み、今ではNTTグループ全体のデザイン活動をリードしています。既存の組織から独立した「特区」のような位置付けではなく、社内のあらゆる部署に顔を出し、ある種のファシリテーターとして地道に、かつ短期間にデザインを浸透させていった本事例は、日本の大企業にデザインを導入する際のモデルの一つといえるでしょう。

 一方、古くからインハウスデザイン組織を抱えてきた大企業が、デザインの拡張に合わせてドラスチックに組織を変革したのがパナソニックです(白書190ページ)。同社では、19年にデザイン本部を設立し、プロダクト、UX、R&D、ブランディング、未来構想まで一気通貫で取り組める体制を構築。21年に臼井重雄氏がデザイナーとして初の執行役員に就任し、経営の強い支援の下、デザイン活動を強化しています。家電という極めて成熟度の高い市場に、常識を覆すようなイノベーティブなプロダクトを次々に投入できている背景には、組織的なデザイン変革の取り組みがあるのです。

 かつて企業のインハウスデザイン組織といえば、プロダクトやサービスの一部だけ、しかも後工程のスタイリングだけを担うのが当たり前でしたが、近年はデジタル化でプロダクトとサービスの融合が進んだことで、開発プロセスの上流からデザイナーが関わるケースが増えています。ただし、事業部門に埋没し過ぎると分野横断的な活動が生まれにくい。そこで、こうした先進企業では、経営に近い先行的なデザイン組織を核に、各部門でも分散的にデザイン人材が活動できる構造への変革が進んでいるのです。