敵の手の内を知るため
訴状をじっくりと読むことからはじめた

 まずは、訴状をじっくりと読むことからはじめた。

 名誉毀損の対象となっているのは、書籍内の「ユニクロで働くということ 国内編」と、「ユニクロで働くこと 中国編」の労働問題を扱った2章に絞られているということが、わかった。

 具体的に名誉毀損にあたるとした記述は全部で27カ所。国内編が9カ所で、中国編が18カ所。まずは、本に蛍光ペンで色を付け、番号を振った。敵の手の内を知ろうと思ったのだ。

 国内の労働環境の記述がどうして名誉毀損となるのかについては、訴状にこう書いてあった。

「原告ら(ユニクロを指す)がその営業店舗の店長に対して、実質的に月に300時間を超える就労を強要しており、これに対して店長は『タイムカードを先に押していったん退社したことにして就労を続ける』、すなわち労働基準法に違反する、いわゆる『サービス残業』を行っており、原告らは、この事態を知りながら見て見ぬふりをしているという事実を摘示し、原告らが、店長に過重な長時間労働を課し、かつ労働基準法違反行為を黙認・放置・奨励しているという悪質な会社であるという印象を一般的平均的な読者に強烈に与えるものとなっている」

 中国の労働環境については次のように書いてある。

「原告らが中国においてその製品の製造を委託している工場では、劣悪な労働環境の下で長時間過重低賃金労働が行われており、原告らは、この事実を放置・黙認・隠蔽し、さらに、中国の生産工場側に苛烈な取引条件を押し付けており、そのことが劣悪な労働環境の原因になっているという印象を」読者に植えつけるものとなっている。

 企業が裁判を起こすかどうかは、経営トップの決定事項だ。部長や取締役クラスだけの判断で、裁判を起こすことはまず考えられない。