「お客様第一」を掲げ、顧客への献身的なサービスをアピールする企業は少なくない。しかし、そうした企業の中には、むしろ客が離れたり、ブラック企業に成り下がったりするところがある。本当の意味で「お客様第一」を実現する組織マネジメントの新潮流は、あのスターバックスのお墨付きだ。※本稿は、上林周平・松林博文著『組織の未来は「従業員体験」で変わる――人手不足の時代にエンゲージメントを高める方法』(英治出版)の一部を抜粋・編集したものです。
なぜスタバの店員は
“感じがいい”のか?
多様化、雇用の流動化、リモート化、人不足といった環境が組織マネジメントをかつてなく難しいものにしている今日、重要性を増しているのが、従業員が仕事の中で得る体験価値、すなわち従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス、EX)です。
体験価値とは「商品やサービスを利用する際に得られる物質的な価値以外の感情や経験的な価値」のことです。一般に、顧客にとっての体験価値、カスタマーエクスペリエンス(CX)の文脈で語られることが多い概念です。
たとえば、スターバックスが大勢の利用者を引き付けるのは、コーヒー飲料の物質的な価値だけではなく、落ち着いた店内の雰囲気や親しみのある接客など、そこで得られる体験の価値が認知され評価されているからです。逆に、店内が騒がしくて汚く、接客も無愛想、といった劣悪な体験をさせられるカフェだと、いかに美味しいコーヒーが飲めてもお客さんは離れていくでしょう。
会社や仕事についても、同じことが言えます。従業員体験において「物質的な価値」に該当するのは主に給与でしょう。働くことでお金が得られる。これが仕事から得られる基本的な価値です。そして、それ以外の「感情や経験的な価値」である体験価値としては、仕事のなかで得られる達成感、充実感、やりがい、成長の実感、貢献の実感、上司や同僚との信頼関係、職場の雰囲気などが挙げられます。
ここでは、従業員体験とは、「企業や組織に所属する従業員が、仕事や職場において得る経験や感情のこと」と定義します。(図1・7)
エアビーもアドビも
従業員満足に注力
カスタマーエクスペリエンスの向上が商品・サービスのリピート購入や継続利用につながるように、従業員体験を充実させることは、エンゲージメントの向上に直結します。仕事への意欲を高め、組織への定着を促し、また人材を採用する上でも非常に大きな影響をもたらすと考えられます。
組織の未来は、メンバーにどのような従業員体験を提供できるかによって大きく変わる。筆者らはそう考えています。