エンプロイーエクスペリエンスという概念は、優れた組織づくりを志向する企業の間で導入が広がってきています。代表的な例が民泊プラットフォーム企業のエアビーアンドビー(Airbnb)です。そもそもエンプロイーエクスペリエンスという言葉を最初に提唱したのが同社の元人事責任者マーク・レヴィと言われています。彼はHead of Employee Experienceとして働きやすさや生産性を高める職場づくりに尽力し、同社はGlassdoorの「社員が選ぶ企業ランキング」で第1位になりました。

 また、デジタルソフトの世界最大手アドビ(Adobe)も、人事部門をエンプロイーエクスペリエンス部門に改称し、アメリカでは未整備であることの多い産前産後休暇の導入をはじめ、従業員の体験価値の向上に取り組んでいます。その他にもスターバックスやユニリーバなど世界的な先進企業がEX向上を重要な課題ととらえて取り組んでいます。

 従業員体験が充実することが仕事への意欲の向上や組織への定着につながることは直感的に理解しやすいと思いますが、企業の業績には関係があるのか、疑問に思われる方もいるかもしれません。

 それを考える上で、サービスマネジメントの分野の知見が参考になります。あらゆる分野でサービス産業化が進んでいる今日、サービスマネジメントの分野で研究されてきたことは、いわゆるサービス業以外の業種にも活かせるところが多々あります。

 これまで主流であったマネジメントの考え方の多くは工業化の過程で形成されたものであり(代表的なものとして「科学的管理法」があります)、それがサービス産業化という環境変化の中で適応不全になっているわけですが、一方で、サービスの世界で探究されてきたマネジメントのあり方が、他の業種にも適したもの、応用できるものになってきているのです。本記事ではこうした考えからサービスマネジメントの知見を随所に織り交ぜています。