私たちはなぜスタバでガッカリしないのか――。顧客満足で右に出る者がいないスタバの手法は、同時に従業員の満足度を高める施策にも通じる点がある。※本稿は、上林周平・松林博文著『組織の未来は「従業員体験」で変わる――人手不足の時代にエンゲージメントを高める方法』(英治出版)の一部を抜粋・編集したものです。
スタバが人気なのは
「期待値調整」が上手いから
期待値を合わせるとは、期待できること・できないことを明確にすることです。この会社・この仕事ではどんな体験ができるのか、できないのか。それを言語化すること、いわば従業員体験のコンセプトをつくることが、期待値調整の核となります。
サービスビジネスでも同じです。「お客様第一」「最高のサービス」などと言っても、顧客のあらゆる要望に応えられるわけではありません。むしろ、することとしないことを見極め、「私たちはこういうサービスを提供する」というコンセプトや基準を定めることが大切です。
たとえばスターバックスは、自宅でも職場でもない第3の場所、「サードプレイス」を提供するというサービスコンセプトを持っています。人々はスターバックスで単に「コーヒーを飲む」体験をするのではなく、家庭や職場をしばし離れてリラックスする体験を得ているわけです。このコンセプトを意識してスターバックス店内を眺めてみると、ほどよくフレンドリーな接客から落ち着いた内装や座席、BGMなど、店内で体験するものすべてがこのサービスコンセプトに即して整えられているように見えます。
一方で、たとえば「驚きに満ちた刺激的な体験」や「周囲を気にせず商談ができる、第2の会議室のような場」や「ボリュームたっぷりのドリンクとフードで満たされる」といった体験は、スターバックスでは期待しにくいものです。そうした期待を持ってスターバックスに行く人もなかなかいないでしょう。利用者の期待値が合っているということです。