従業員を喜ばせるだけでは
失敗する

 従業員体験のデザインにおいても、組織としての軸、EXのコンセプトを持つことが重要です。コンセプトをしっかりと考えないと、手当たり次第に「従業員に喜ばれる体験」を設計してしまい、費用や人事側の負荷が過大になってしまう恐れがあります。あらゆる体験を提供することはできません。

 また、どのような従業員体験を提供するかは、働く人に対する会社としてのメッセージになります。コンセプトを定めずにさまざまな体験を提供していると、会社の方針や価値観と必ずしも一致しない行動を助長することにもなりかねません。具体的な施策を考える前に、コンセプトをはっきりさせておく必要があります。

 従業員体験のコンセプトを決める上で、いちばんの拠り所になるのは組織のパーパス(存在する目的)や価値観です。ミッション、ビジョン、バリューなどの言葉で語られるものもあるでしょう。そこからその会社で働く人に求められる行動や、働くことで得られる体験のコンセプトを考えていくとよいでしょう。

 また、一般に「なぜその仕事をするのか(WHY)」を示すパーパスに対して「どのようにするのか(HOW)」を示す行動指針や社訓は、具体的な行動につなげて考えやすいためEXのコンセプトづくりの良い手がかりになりそうです。「クレド」や「フィロソフィ」、「◯◯ウェイ」といった表現で語られている例もあるでしょう。それらは従業員に期待される行動を示しており、いわば会社から個人に対する期待値を意味しています。