期待を押し付ける「社訓」は
従業員に響かない

 たとえば、リクルートの有名な旧・社訓「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」は、創業者の江副浩正氏が1968年につくった言葉で、多くの社員・元社員に影響を与えたと言われます。同社の企業文化を象徴する社訓であり、この会社では主体的にチャレンジすることが求められること、それによって成長できることが示唆されています。

 仕事のなかでそんな体験をしたいと願う人たちが、この言葉に惹かれて同社に入ったのではないでしょうか。明示的に語られているわけではありませんが、同社におけるEXのコンセプトを示唆した言葉だととらえることができそうです。

 一方で、行動指針のような文言については、組織が個人に一方的に押し付けるものという印象を持たれる方もいるかもしれません。「~すべし」といった言葉で語られる社訓を朝礼で唱和する会社は、昔は多くあったようですが、現在はあまり好まれないようです。

 おそらく多くの社訓は、会社が個人にさまざまな行動を求めるものではあっても、個人が会社に対して期待できることを示すものではないからでしょう。

 個人と組織の関係性がより対等なものになっている現代、会社が一方的に期待を押し付けるようなやり方では、真の意味で従業員体験の期待値が形成されたことにはなりません。「この会社では何を求められるのか」だけでなく、従業員目線で「この会社ではどんな体験ができるのか」を言語化することが必要です。