流行りに乗っただけの「女性登用」ではないと信じたい。7月30日に政府が開いた「創薬エコシステムサミット」。黒いスーツ姿の男性らに囲まれ、白いジャケットに寒色系のスカーフをまとった華やかな女性の姿があった。武田薬品工業で女性初のジャパンファーマビジネスユニット(JPBU)のプレジデントに4月1日付で就任した宮柱明日香氏だ。
この日は武田の代表として参加。ただ、別の狙いもあったかもしれない。というのも、製薬業界を代表する「顔」になる可能性があるからだ。暗黙の輪番制とされる日本製薬工業協会の会長は25年度から武田の番。クリストフ・ウェバー社長が就く可能性もゼロではないが、宮柱氏は4月に関西医薬品協会の会長に就任している。ちなみに、いずれの団体の会長職も女性初だ。
そんな期待がかかる宮柱氏だが、実はJPBUプレジデントは「玉突き人事」で昇格したとも言える。起点は武田が2月1日に発表したコスタ・サルウコスCFOの退任。ご息女の進学のタイミングや高齢の母との時間を大切にしたいといった理由から、母国のオーストラリアに戻りたいとの申し出があったという。退任に伴い、後任には当時JPBUプレジデントの古田未来乃氏が選出。この時点で古田氏の後任について武田は「決まっていない」と本誌に説明していた。
そして、1ヵ月後の3月13日に宮柱氏の就任が発表された。プレスリリースでウェバー社長は「人材の選考過程において、最も経験豊富で抜きん出た候補者」「最適な人物だと確信」と絶賛するコメントを寄せた。わざとらしく聞こえるのは、武田は女性管理職の登用を推進している真っ最中。各部門の責任者で構成される「タケダ・エグゼクティブチーム」(TET)は宮柱氏が加わり17人中9人が女性となった。宮柱氏の人選も「女性だったから」という穿った疑問が湧き上がる。