新業者と新住民の流入を
把握するための全戸加入

 ここで注目すべきは、規約にある次の条項である。

「本会ハ町ノ発展策トシテ新規営業開店者ニ対シテハ相互合議ノ上相当ノ策ヲ図ルモノトス但シ新移住者モ又同ジ」。

 つまり「新規営業開店者」と「新移住者」にたいして「相互合議」することを義務づけているわけである。「新規営業開店者」については、発起人が新興の自営業者であったことからして、明らかに同業者が移住してくることを警戒してのことであろう。そのために会は全戸加入でなければならなかったわけである。

 それでは、付け足しのように「新移住者」についても同じとなっていることはどう解釈できるのだろうか。

 昭和の初めのこの時期は、近代の都市化が進んだ時期であり、繁華街へと至るこの町にも、自営業者だけではなく俸給生活者などが住居を求めてどんどんと移り住んでくる頃であった。

 隣に誰が越してくるかもわからないという状況の中で、全戸加入の町の会ができて、あらかじめ移住者と合議ができるというのは、自営業者ではない一般の住民にとっても、安心できることであった。そのことが一般の住民が発起人たちの提案を受け入れた理由のひとつであったろう。

 若い自営業者たちにとっても、自分たちだけでは新年会や忘年会の費用もままならない。「町ノ発展ヲ講」ずるという大義名分を掲げて、資産家を巻き込む必要があったのである。それが通りに面した商人だけの会ではなく、全戸加入の町の会でなければならなかった理由である。また、都市化によって誰が越してくるかわからないという一種の危機的な状況が、一般の住民もそれを受け入れていった背景のひとつであった。