不妊治療の効果が出やすいのは43歳くらいまで

 妊娠に強い執着があり、50歳を過ぎても不妊治療に通う方もいます。そこには治療に通うことで気持ちが安らぎ、前向きに努力していると肯定的になれるという気持ちがあるようです。治療をやめると虚無感に襲われてしまうので、治療に行かないと気がすまないという方もいます。いつのまにか、子どもをつくるというより、不妊治療に通うこと自体が目的になってしまっているのです。そういう患者さんには医師としてもどう助言するか悩むところです。

 ですが、年齢的には限界を超えているので、医師の誰かが説明しなくてはなりません。以前、アメリカの病院で医師が、「年齢的にもう厳しいのでこれ以上の治療はすすめられない」と言ったら、病院の駐車場で「子どもができないなら生きている意味がない!」と大騒ぎになってしまいました。医師としてもつらい場面でした。

 メディアでは、不妊治療の明るい面ばかりが取り上げられますが、現実は厳しい面があります。体外受精などの生殖医療にも年齢的な限界があることを知っておいてほしいのです。

 医学的な立場から判断すると、本当に不妊治療を行なって効果が出やすいのは43歳くらいまでです。たとえばフランスでは医療保険で不妊治療ができますが、43歳以上ではそれができなくなります(各国の不妊治療の助成制度をまとめた下の表を参照してください)。

 ほとんどの国で、不妊治療への補助には年齢制限があります。一方で、1回あたりの補助額は高めに設定されています。
 年齢制限なく、地方自治体が一部のみ負担という形でお金を出しているのは日本くらいです。限られた財源を分配して、国や自治体がお金を出す以上、疫学的研究データに基づいてターゲット人口に集中的に助成を行なうべきですが、そういうことが十分にできていません。