新たな経済産業政策を打ち出し、大幅な経済成長を目指す岸田政権だが、その成果は今ひとつだと感じるのはなぜだろうか。具体的な政策内容やその影響について解説し、日本経済の未来を考察する。本稿は、鈴木洋嗣『文藝春秋と政権構想』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
政府が打ち出す経済産業政策に
目新しいものがないのはなぜか
2013年から始まったアベノミクスの3本目の矢である成長戦略。民間投資を喚起する構造改革と謳ってはいたが、悔しいことに7年8カ月のあいだには特筆すべき成長分野が生まれなかった。ただ菅官房長官が主導したインバウンド政策は新たな成長分野となったといえよう。
実は30年前の「梶山10兆円構想」(編集部注/「週刊文春」1997年12月4日号掲載の「梶山静六・前官房長官緊急提言 わが日本経済再生のシナリオ」を指す)のなかでも、この産業政策については通産省や民間エコノミストから様々な知恵を借りた。新たな成長が見込まれる分野として、環境、宇宙開発、バイオといった分野を成長と見込んでいたが、アベノミクス同様、うまくいかない結果に終わっていたのかもしれない。ただ、ベンチャー育成やその環境整備、特許権の確立などいまの経済対策を先取りした中身もあった。逆に言えば、産業政策に真面目に取り組むならば、出てくるメニューにそう目新しいものはラインナップできないように思う。
あまり知られていないが、現在の岸田政権が決めた経済政策はかなり画期的なものとなっている。
齋藤健大臣率いる経産省では、「世界的潮流を踏まえた産業政策の転換」すなわち、「経済産業政策の新機軸」を打ち出している。市場、マーケットに任せるといった新自由主義的政策から、政府が積極的に介入し、官も民も一歩前に出て、あらゆる政策を総動員するとぶち上げた。さすがに「新しい資本主義」と呼ぶのは控えたようだが、結構な額の政府のカネを使って産業界を後押ししようという姿勢に転換している。
日本経済の現状について、経産省は「潮目が変わった」と判断している。91年以来、企業の設備投資はずっと100兆円を割っていたものが、2023年は100兆円を超えてきたことが大きい。春闘も30年ぶりの高水準となり賃金も上がり始めた。マクロに変化が見えてきたことを、その要因に挙げている。
こうした流れを見越して、21年から「経済産業政策の新機軸」と名付けた政府のカネを使った施策を次々と打ち出している。
政府のカネで民間のやる気を
牽引しようと目論む岸田政権
たとえば、GX(環境対応の産業構造の転換・成長志向型カーボンプライシング構想)に1.6兆円、DX(デジタル・トランスフォーメーション)で半導体、次世代計算基盤構築(AI)に2兆円、蓄電池に4000億円を支出することが決まっている。