とはいえ、同文書はそれに続けて「しかし人件費が常に一定であるということは、労務構成が一定であるという前提条件をおいている訳であるが、実際にはこのような条件が整っているのではなく、常に労務構成は変動し波状運動を続けており、人件費も短期的にはある程度の増減が起こる」(要旨)と述べています。しかしながら、真の問題は短期的な波状運動にではなく、長期的な年齢構成の変化にこそありました。

 この点も、グラフで見たほうがわかりやすいので、まずは年齢構成が変わらない場合の定期昇給による内転のメカニズムを見た上で、年齢構成が変わっていくとそれがどうゆがんでいくのかを図解してみましょう。

 図3は、21歳から60歳まですべて1人ずつの企業で、初任給21万円から毎年1万円ずつ昇給していくというやや非現実的な想定のグラフです。Aさんは入社した1年目は年齢と同じ21万円でしたが、毎年年齢と同じ賃金額で昇給していき、39年後には60万円になっていますが、この間企業側の人件費負担は全く変わっていません。平均賃金額はAさんが21歳だったときにも、Aさんが60歳になったときにも、常に変わらず40.5万円です。